( 2013.10.11 )
寿.
 

 今春、大気汚染の原因となる微小粒子状物質 「PM2.5」 の拡散が各国に影響を及ぼした中国で10月、再び大気汚染が深刻な汚染レベルに達した。 PM2.5は石炭の燃焼で発生する粉塵ふんじんが主因とされるが、米国や中国などの研究者による調査団が今年7月、石炭禍で中国北部だけで25億年分の人の命を奪ったとの報告書を発表した。 大気汚染に国境はない。 10月の大気汚染では、日本の自治体も再び測定値の推移を注視したという。





マスクを着用する女子ゴルフの選手とキャディー。
10月6日に大気汚染状況は北京市内全域で最も重い 「 深刻な汚染 」 となった。
 建国記念の日にあたる 「 国慶節 」 に伴う長期休暇中の10月6日、北京市の大気汚染状況は市内全域で最も重い 「 深刻な汚染 」 に達した。

 6日午前8時で同市内で、同市当局が定める6段階で最悪の数値を記録。 当局は、市民に外出を控えるよう警報を出し、北京国際空港では視界不良のため一部航空便の発着を取りやめるなどした。

 影響は多方面に及び、市民生活や観光などのほか、3~6日に北京市内で開かれた米女子ゴルフツアーの試合では、マスクを着用する選手やスタッフが続出。 同様にテニスの中国オープンの観客席にもマスク着用の観戦者がみられた。

 今春に猛威を振るったPM2.5による大気汚染に続く現象には、今年3月に日本の環境基準値を大きく上回る値を示した大阪市の担当者も注視し、数値が上がらないか監視を続けたという。

 中国で今年初めに問題となったPM2.5は、石炭火力発電所からの排出などが主な原因とされた。 その発電所は大型連休中だから稼働していない。 原因はよく分からないが、今回の大気汚染では、各国が中国当局を信用していないことも判明した。

 フランス通信( AFP )によると、在中米国大使館は6日朝、米国籍保持者に宛てた電子メールで、10月4日の午後8時からの24時間で大気質指数( AQI )が平均300を超え、夜間には400を超えていたと伝えた。 AQIは301を超えると人体にとって危険な状態であるとし、屋外での運動は全て避けるようにと指示したという。

 いわば外出禁止令だが、米国が中国当局が出してくる数字を信用していない証拠でもある。





防毒マスクを着用する男性( 北京市内 )
 各国の懸念を裏付けるような 「 恐ろしいデータ 」 を、中国や米国などの研究者による国際調査団が今年7月、米科学アカデミー紀要に発表した。

 それによると、大気汚染の影響で、北京を含む中国北部の人たちの平均寿命は南部の人と比べ5.5年短いという。 要因として指摘されたのが、中国政府が1950年から30年間実施していた石炭の無料配布に伴う影響。石炭は暖房用として、中国中部の淮河北側の事務所や一般家庭に配布されていたが、その排出するPM2.5などの影響で、健康を害する人が増加。 調査は、約5億人が影響を受け、25億年分の寿命が失われたとも指摘している。

 中国人の健康をむしばむだけではない。

 今年初めのPM2.5飛来では、関西をはじめとした日本各地でも高い濃度が検出。 例えば、大阪市内では、一日平均の環境基準値1立方メートル当たり35マイクログラム以下を大きく超える地点が相次ぎ、3月には最高で同63.4を記録した地点もあった。
 2010年12月のウォールストリート・ジャーナルの記事によると、カリフォルニア州のサンフランシスコ湾内に飛来する大気汚染物質のうち、29%は中国からだったという。 同様に今年3月もPM2.5は太平洋を超え、米国に影響を及ぼしていても何ら不思議ではない。




 大気汚染をめぐっては、中国政府も2017年までの改善計画を立てている。 ワースト10の都市を毎月公表するほか、PM2.5削減率を官僚の 「 出世 」 に反映させるなど、その対応ぶりは必死そのもだ。

 ただ、大気汚染を作り出した“根”は深い。

 環境保護団体グリーンピースなどは今年6月、PM2.5の影響によるとみられる死者が北京市、天津市、河北省で11年だけで9900人に上ったとの研究報告を発表した。 死因は主に肺がんなどで、9300人が小児ぜんそくを、1万2千人が慢性気管支炎をそれぞれ患った。 11年の時点で両市と河北省には石炭火力発電所が196ヵ所あり、河北省の石炭消費量は約3億トンに上ったという。

 いずれのデータも、身の丈以上の急速な経済発展を目指し、いびつでゆがんだ中国社会を示す証拠でもある。

 米マサチューセッツ工科大学の調査チームは昨年、急速な経済成長を進めた結果、大気汚染に伴う経済損失は2005年時点で1120億ドル( 約11兆円 )に達したとの調査結果を報告した。

 25億年分の寿命を奪ったとされる調査を担当した中国の大学教授は、大気汚染による労働力の低下を指摘しつつ、経済成長を犠牲にしてでも問題を解決することの必要性を訴えている。