中国は、日本のODAをどうみているか?

エリートでも、日本の援助を全然知らない

 中国は、日本の経済援助については、ほとんど国内で広報していない。 その結果、国民もほとんど実情を知らない。
 だが、さすがに中国政府も、昨今の日本人の嫌中国感情に対してあせりの色が隠せなくなったようで、2000年秋には、急進“日本のODA・経済援助に感謝する集い”を開いている。
 来日した朱鎔基首相の口からも「 日本のODAに感謝している 」との言葉も出た。 しかし、いずれも泥縄式の対応で、政府が本腰を入れて日本のODAを国民に伝えはじめたわけではない。
 『 人民日報 』 も、日本からのODAに触れてはいる。 しかし、この新聞は、しょせん共産党の宣伝紙であって、進んで読んでいる読者は1人もいないのが現実だ。
 そう考えれば、一連の動きも、次のODA獲得に向けたアリバイ作りとしか映らない。
 先日も、ある旅行社の日本人スタッフ( 女性 )から不愉快な話を聞かされた。
 中国の南京で、彼女は現地旅行社のガイドだちと一緒にいて、たまたま上海の浦東新空港の話になったという。
 そのとき、彼女が、この空港には日本の第4次円借款から400億円が供与されているという話をしたところ、中国人は誰一人、この事実を信じようとはしなかった。 そればかりか、返ってきた答えは、  「 日本人がそんなことをするはずがない 」
 遂に、中国人ガイドが張り切るのは、南京事件に話が及んだ時だ。
 たまたま日本人ツアー客の中に、実兄が南京攻略戦に参加したという老人がいたそうだ。 老人は何気なく、そのエピソードを話した。 その瞬間から、鬼の首でも取ったかのような糾弾が始まり、それには上海からツアーの一行を乗せてきたバスの運転手までが加わったという。
 およそ観光にふさわしからぬ異様な光景である。 ましてや日本人ツアー客は、自腹を切って南京まで観光に来たのである。
 この日本人添乗員の女性によると、
 「 南京は特に気を使います。 あとはやはり東北( 旧満州 )ですね 」
 これが年間150万人の日本人が訪れる中国ツアーの、もう一つの現実である。

 中国人の現地ガイドは、海外の事情に疎い一般の中国人ではない。 日本の事情にも詳しく、日本人を相手に商売もし、日本語も話せる中国ではエリート階層の人々である。
 その彼らですら、日本の中国援助の事実を知らない。
 先にも述べたとおり、79年から始まった対中国円借款は、2兆6500億円に上っている( 2000年の第4次円借款の最終年度分まで )。 これとは別にインフラの整備を目的にした 「輸銀ローン」 が3兆4283億円になる。 もちろん無償援助もある。
 合計すれば、この 20年間で6兆円 という途方もない金額に膨れ上がっている。
 いずれも日本の公的資金、つまり税金から出ているのだ
 それでも中国人の間からは 「日本人がそんなことをするはずがない」 という言葉が返ってくる。


中国政府が、実態を国民に教えない理由

 ある中国人は、日本に4年、留学していた。 現在、上海にいる。 日本語はぺらぺらだ。 ピカチューも木村拓哉も知っている。
だが、彼がいつも利用する浦東国際空港や地下鉄が日本のODAの対象案件であった事実は、「 初めて聞きました 」と言う。
 原因はもちろん、共産党政府の反日愛国教育にある。
 市場経済の急速な発展で共産党の存在理由は、急速に消滅しつつある。 共産党政府の危機感、焦燥感はひととおりのものではない。
 党内の腐敗も深刻で、江沢民国家主席ですら「 政権の命取りになりかねない 」と危機感を募らせる。
 1つの政権であれ、政党であれ、前途と命運は人心の向背によって決定される。 市場経済下で、党の組織が社会の腐敗思想の侵食を受け、私的利益の追求に利用されている 」 2001年の春節( 旧正月 )の『 人民日報 』の論評がこれである。 危機感は横溢おういつしている。
 江沢民は恐れている。 なるほど市場経済は離陸した。 貧しかった国民は豊かさの味を知った。 その点では旧ソ運や東欧と違って、中国は社会主義の崩壊を前にして、一歩踏みとどまった。 経済成長を背景にして、世界も中国を大国として遇しはじめてもきた。 だが、無条件にこれからも輝かしい未来があるわけではない。 耐久年数を越えた政権の内部は、シロアリに食い散らかされたように、空洞化が進んでいる。
 法輪功への過剰な警戒は、水鳥の羽の音にもおびえる彼の心象風景を映し出している。
 国民もばらばらになった。 階層分化も大きく進んだ。 勝ち組と負け組は完全に色分けされた。 もう逆転はない。
 次の大波はWTO( 世界貿易機関 )への加盟である。 有力な海外のパートナーと組んだ国内企業だけが生き残れる。 これから大陸で火ぶたを切るのは、日米欧のビッグ・ビジネスによる市場争奪戦だ。
 中国の分解は、さらに加速するだろう。
 そうした今の中国で、中国人が国民意識を共有しうるのは、抗日戦争の歴史だけである。 あの当時は共産党も輝いていた。 国民も団結していた。 金持ちも貧乏人も、老若男女も問わずに、だ。
 だから、国民向けにも、反日カードは捨てられない。 まして米国との蜜月関係を演出する親米反日色の強い江沢民政権ではなおさらだ。
 その結果、日本の戦前の中国侵略は熱心に報道されるものの、現在の日本の平和外交政策や中国援助の実態には、ほとんど言及されない。 反日キャンペーンに、なんらプラスにならないからだ。
世論は明らかに誘導されている。

 日本国民の税金から捻出され、供与される3兆円ものODA輸銀のローンも入れて6兆円。 金額だけではない。 諸外国に比べて、貸し出し条件も日本のODAが一番いい。 金利は低く、長期で、ヒモもついていない。
 円借款は最もオイシイ。 これが中国政府のホンネなのだが、その事実を国民に伝えることはない。
 国民は今現在も 「日本がそんなことをするはずがない」 と本気で信じている。

 上海の浦東新空港で、何十人もの中国人たちに日本の経済援助について聞いてみたことがある。 2000年12月のことだ。
 空港の広報ウーマンですら 「我不知道( 知りません )」。
 異様な話ではないか。 腹が立つよりも、もはや笑いとばしたい思いに駆られている。