( 2014.08.28 )





 電子情報空間を戦場とする国家間の攻撃・報復合戦は 「サイバー戦争」 と呼ばれ、米国と中国の間で日常化している。 日本にとっては決して対岸の火事ではない。 中国はひたひたと日本国内の情報通信技術および関連産業の現場に浸透している。

◆ 米当局から警告

 7月28日夕、東京滞在中の米国人コンピューター技術者K氏は米カリフォルニア州シリコンバレーの中心、サンノゼ市にある自身の研究所スタッフから緊急連絡を受けた。 「 捜査当局から警告が入った。 R社が購入した米国アルテラ社製のFPGA( 製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路 )一式がそっくり31日に中国の手に渡されようとしている 」

 R社とは、K氏が持つ技術をベースに2011年、東京に設立されたベンチャー企業。 パートナーのシステム設計会社S社と組んで、独立行政法人 「 情報通信研究機構( NICT ) 」 ( 本部・東京都小金井市 )から昨年8月に3次元( 3D )立体画像のリアルタイム伝送システムを受注した。 FPGAチップ一式は同システム用スーパーコンピューターの中枢部を占める。 米政府は軍事転用可能な最先端技術として監視している。

 慌てたR社は同日夕、チップ一式全てを預けているプリント基板製作会社F社の担当部長に問いただすと、基板の設計会社P社に置いていることが分かった。 K氏らは翌日午前、横浜市のP社に車で乗り込み、全てを回収した。

 FPGAは200個。 1個当たり36万円で、総額7200万円に上る米国の輸出禁制品である。 厳重な管理が要求される技術資産を、F社は所有者の断りなくよそに運び込んでいた。


◆ 三重包装破られ

 点検してみると、FPGA用段ボール24箱のうち1箱と、FPGAとPROM( 特定の手順で書き込みが可能な読み出し専用メモリー )用の3箱全てが開けられていた。 二重、三重のPROMの真空包装が全て破られ、チップはむき出しだ。 PROMはFPGAとセットになる半導体で、K氏が3D画像処理のための基本データ( ソースコード )をアルテラ社の施設で書き込み、FPGAとともにシステム中枢を構成する手はずだった。 運び出した人間はソースコードがすでに書き込まれていると踏んで、読み取り装置にかけてコピーしようとしたのだろうが、幸いK氏はどのチップにもまだ書き込んでいなかった。

 FPGAやPROMの包装を破るだけでも、米国では違法行為として厳重に処罰される。 K氏は帰国して米連邦捜査局( FBI )に詳細を報告。 R社とS社は現在、日本の輸出管理を担当する経済産業省に通報する方向で検討している。




 軍事転用可能な最先端技術の中枢部品が奪われかけた一件には伏線があった。

 7月19日、K氏は中国・深センのホテル・ラウンジで旧知の中国空軍の長老H氏と向き合っていた。 H氏は自分の携帯電話を取り出すと、 「 中国科学院幹部からのあなた向けのメッセージがある 」 とショートメールの画面を開けた。
「日本のNICTは3D立体画像技術開発で多視点型とホログラム方式の2つのグループが技術開発に取り組んでいる。 Kさんは多視点型でわれわれと組んでくれないか」
 発信者は 「 阮昊 上海 」、日付は6月14日午前11時4分となっていた。


◆ ミサイル防御網突破

 NICTは同プロジェクトを 「 超臨場感映像システム 」 と名付けている。 NHKはこの技術をもとに、2020年東京五輪で3D眼鏡なしで見られる次世代の立体テレビ試験放送を目指している。 いかにも民生用に見えるが、この技術を使えば標的を瞬時に探り当て、距離を寸分狂わず測定できるため、無人偵察機、中距離ミサイル、 “空母キラー” といわれる対艦弾道ミサイルの目になる。 ミサイル攻撃の際、電波錯乱によるミサイル防御網をやすやすと突破できる。

 メールの発信者である阮昊氏は43歳のエリート技術者。 「 中国科学院上海光学精密機械研究所( SIOM )室主任 」 の肩書だが、情報通信技術開発の 「 中国科学院上海微系統研究所 」 ( SIMIT )担当を兼務している。

 「 科学院 」 は中国人民解放軍と直結しており、SIOM、SIMITとも軍事技術開発の中核である。 両研究機関は衛星やレーザーを使った地上攻撃、対立国の衛星破壊の技術開発に全力を挙げており、サイバー戦の頭脳でもある。 阮昊氏は衛星を使った中国の軍事技術開発のキーマンであり、3D画像技術開発の先駆者であるK氏の取り込み説得工作を依頼したのだった。

 H氏は 「 われわれには3D画像技術に20億元( 約340億円 )の研究資金がある。 中国の対日優位は揺るがない 」 と強調。 さらにK氏の両親が南京市出身であることを念頭に 「 あなたの親は南京事件を忘れちゃいないだろう。 日本なんか見切って、われわれに協力しろ 」 と迫り、ただちに上海に飛んで阮氏に会おうと誘いかけた。 これに対し、K氏は 「 私は米国人だ。 そのつもりは全くない 」 と席を立った。 FPGA( 製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路 )チップ盗難未遂はその後に起きた。 技術提供を拒んだことで、今度は腕ずくで奪うつもりだったのか。

 H氏はあけすけに、対日工作の手口をK氏に打ち明けていた。 「 日本人はカネに弱い 」 「 われわれはすでに日本に2千人の工作員を送り込んでいる 」


◆ 大手の技術流出5件

 一口に情報技術( IT )、情報通信技術( ICT )といっても、完成品に仕上げるためには関連産業の裾野を形成する中小企業群の協力が必要だ。 ITコンサルタントの山本一郎氏は外務省発行の雑誌 「 外交 」 ( Vol.24 )への寄稿論文で、半導体ボード試作会社の幹部が中国系企業によって買収されていることを明かした。 試作会社経由で大手の技術が中国に流出する事件が昨年5件、日本政府に報告された。

 例えば、大手の光学機器メーカーが開発した最新式の大容量画像処理ソフトウエアや、自動車メーカーが開発中の自動運転用センサーの技術が試作会社を通じて中国に流出したという。 光学機器メーカーはシステムに同社の目印を刷り込んでいたら、目印ごとコピーした技術が香港で出回ったことで流出が発覚した。 ところが、この光学機器大手は中国市場でのビジネスへの悪影響を考慮して、告発を見送った。

 中国は深セン地区を中心に半導体ボードの製作会社が集積し、その世界生産シェアは45%にも達する。 日本の大手機器メーカーは試作品を中国に発注することが多い半面、日本のボード会社も深センなどに進出して中国系企業との提携関係を築いている。 SIMITやSIOMは人海戦術で日本産業の裾野に入り込み、サイバー攻撃に必要な個別の技術を日本から収集して、まとめ上げる使命を帯びている。




◆ 中国、党主導で軍事機密奪い取り

 「 サイバー攻撃に対して日本は脇が甘いどころか、情報通信技術の流出センターではないか 」 と有力な米情報筋が警告する。

 最近、同筋は日本で闊歩かっぽする中国人スパイ2人を突き止めた。 1人の名前は 「 艾偉 」。 肩書は中国の通信機器大手、華為技術( ファーウェイ )の 「 2012実験室ハードウエア工程技術規制部部長 」。 米政府から産業スパイとして指名手配されている。 他の同社技術者とともに有力な大学の情報通信研究室を昨年7月に訪ねていた。

 もう1人は、本名 「 丁文貴 」 で、日本人名 「 まち 」 を名乗る。 素性は中国の諜報機関 「 国家安全部 」 のサイバー・セキュリティー担当幹部。 今年6月中旬、東京・大手町の通信大手の 「 データセンター 」 に通信コンサルタント会社のパートナーとして頻繁に出入りしていた。 データセンターとは情報通信ネットワークの基幹中枢機能を持ち、 「 サーバー 」 と呼ばれるコンピューターや大容量記憶装置を備え、顧客からデータを預かり、インターネットの接続や保守・運用サービスを受け持つ。


◆ 月800件近い攻撃

 2011年8月には三菱重工業の取引関係者を装ったメールアドレスからマルウエア( 悪意あるプログラム )付きの添付メールが台湾のサーバーから送られ、軍事機密情報が流出した。 同時多発的にIHI、川崎重工業、NECなども攻撃された。 今でも防衛、通信、電力など日本の企業を狙い撃つ月間800件近いサイバー攻撃が発生しているが、発信源の特定はできていない。

 情報通信をめぐる数々の工作疑惑。 ジグソーパズルのように、ばらばらにされた多数の断片をつないでいくと、全体像が見えてくる。 共産党を頂点とする中国という国家が全力を挙げて日本の情報通信システムと関連技術を奪い取ると同時に、サイバー攻撃を含む軍事面で日本を無力化するという謀略である。


◆ 理研がパートナー

 中国では、党が政府、軍、そして人民を支配する。 人民解放軍は政府ではなく党に直属する。 軍は中国科学院上海微系統研究所( SIMIT )という情報通信技術開発機関と、レーザー兵器技術開発を手がける中国科学院上海光学精密機械研究所( SIOM )を傘下に置いている。 SIMITとSIOM両研究機関は、衛星通信傍聴、ハッカー攻撃、レーザーによる敵対国の衛星破壊や衛星からの地上攻撃を研究する。 鍵となる技術が3次元( 3D )の画像処理と伝送技術である。

 その両研究機関に日本を代表する研究機関がパートナー役を買って出ている。 SIMITの相手は独立行政法人 「 情報通信研究機構( NICT ) 」 であり、SIOMはSTAP( スタップ )細胞で揺れる独立行政法人 「 理化学研究所 」 ( 理研 )である。




 独立行政法人 「 情報通信研究機構( NICT ) 」 は、昨年1月17日に中国科学院上海微系統研究所( SIMIT )との間で研究協力覚書に調印した。 相手の了解なしに提案内容を外部に漏らさない機密保持条項が付いている。 重点協力項目は超電導、バイオ・エレクトロニクス、テラヘルツ波( 光波と電波の中間域にある電磁波 )の3つだが、必要に応じて他の情報通信技術分野にも協力を広げる内容だ。

 テラヘルツ波はレーザー兵器に利用でき、米軍が大量破壊兵器対応などを目的に技術開発に全力を挙げている。 NICTは 「 SIMITが軍系かどうかは把握していないが、SIMITとの協力は軍事技術には一切関与していない 」 ( 広報室 )としている。


◆ レーザー技術開発

 理研は、昨年9月10日に中国科学院上海光学精密機械研究所( SIOM )との間で研究協力覚書を締結した。 レーザーおよびその関連技術の開発のために 「 理研-SIOM連携研究室 」 を上海に設置する念の入れようである。

 だが、人民解放軍系のニュース・サイト 「 多維新聞 」 は昨年9月17日付で 「 解放軍、反衛星兵器を開発中。 高密度レーザービーム大量破壊兵器で対米攻撃 」 と題する記事を掲載。 その中で毛沢東の指示によって、レーザー兵器開発のためにSIOMが創設されたと正体を明かしている。 理研は 「 SIOMとの協力は外為法の安全保障貿易管理規則に従っている 」 ( 広報室 )と弁明している。


◆ 米政府は締め出し

 中国の諜報( インテリジェンス )部門は政府の国家安全部( 省に相当 )に属するが、工作員としての人材は共産主義青年団から供給される。 党指令系統で政府、軍と同列である。

 さらに米情報筋によれば、華為技術( ファーウェイ )、中興通訊( ZTE )という中国通信機器大手の2社は、1980年代初めに最高実力者・鄧小平の指示によって生まれた情報通信関連4社の後身だ。

 華為技術の発表では、同社の設立は1987年で、人民解放軍工兵部隊に勤務した経歴を持つ現最高経営責任者( CEO )の任正非氏が42歳のときに、中国・深センで創業した 「 民間会社 」 だという。 だが、交換機中古品の行商から始まり、瞬く間に並み居る世界の通信機器の巨人たちを押しのけた同社には、資金、技術、人材を中心に党、軍、政府からの大掛かりな支援があると米側はみる。 米政府は政府関連の通信機器市場から締め出し、民間にも新規導入しないよう指導している。

 党指令のもとに軍、政府の諜報部門、さらに企業が一体となり、強大で高度な中国のサイバー戦能力。 「 2013年には米政府所有を含めた世界中の無数のコンピューター・システムが攻撃にさらされたが、その多くが中国政府および軍による 」 ( 米国防総省による議会への2014年版 「 中国に関する軍事・安全保障の進展 」 報告書 )というありさまだ。

 米政府は業を煮やし、米連邦大陪審が5月19日、サイバースパイの容疑で、中国軍の 「 61398部隊 」 所属の5人を起訴、顔写真付きで指名手配した。 米原子力大手ウェスチングハウス( WH )、鉄鋼大手USスチールなど企業5社と労働組合が同部隊によるサイバー攻撃にさらされ、米産業の虎の子である原発や、太陽光パネルの重要技術が盗まれた。

 華為技術は今年、日本の通信インフラ市場でのシェア拡張を狙って、売り込み攻勢をかけている。 同社日本法人幹部は 「 当社のサイバー・セキュリティー技術の信頼性には定評があります 」 と胸を張った。 ソフトバンク、イー・モバイルの通信網を中心に華為技術は着々と納入実績を伸ばし、日本の大学などの有力研究者たちを深センの本社に招く一方、日本財界にも人脈を広げている。

 中国は党、軍、政府が総ぐるみで日本の情報通信産業と、技術開発の頂点から裾野まで深く入り込み、ごっそり乗っ取ろうとしているように見える。





( 2014.0907. )

   


 「 狙われた情報通信 」 で、独立行政法人 「 情報通信研究機構( NICT ) 」 と同 「 理化学研究所( 理研 ) 」 が中国人民解放軍系の研究機関と連携していることを明らかになった。 自らの先端技術研究が軍事に応用されるリスクを意識しないまま中国と交流する国内の有力研究機関は大学など他にも多い。 政府は公的資金によって支えられる日本の研究機関に対し、対中連携の全面見直しを求めるべきではないか。

 度重なる中国からのサイバー攻撃に慣れっこになっているはずの米軍関係者を震撼しんかんさせる事件が8月18日に表面化した。 米国最大級の病院グループ、コミュニティー・ヘルス・システムズ( CHS )がサイバー攻撃を受け、約450万人分の患者の個人情報が盗まれたのだ。 6月にはモンタナ州保健衛生局のサーバーから約100万人の個人情報が奪われた。 攻撃を仕掛けたのは、いずれも 「 APT18 」 と呼ばれる中国のハッカー集団という。

 知り合いの米情報筋に聞くと、 「 最も懸念したのは米国市民の遺伝子情報の流出だった 」 という。 特定の遺伝子だけを狙い撃ちにする生物化学兵器が開発されると、その遺伝子を持つ人種すべてが標的にされる危険性が高まる。 それは科学フィクションのような話だが、ロシアは国防を理由に2007年に遺伝子サンプルの輸出を禁止した。

 理研は06年5月から今年5月までの8年間、中国科学院上海分院との間で 「 包括的協力協定 」 を結んでいた。 対象項目には 「 化学生物学 」 「 バイオリソース 」 ( 研究用実験動物・植物、細胞、遺伝子、微生物などの情報 )が含まれる。 上海分院は人民解放軍と一体となっており、傘下にはレーザー兵器開発に取り組んでいる上海光学精密機械研究所( SIOM )がある。 理研はSIOMと昨年9月に研究協力覚書に調印した。

 米情報筋は、 「 中国科学院は10年以上前から遺伝子攻撃兵器の開発に取り組んでいる。 亡くなられた理研発生・再生科学総合研究センター副センター長の笹井芳樹さんのゲノム分析手法に中国側は着目していたはずだ 」 とみている。

 中国系投資ファンドが日本の代理人を通じて医科大学系を含む首都圏の大型病院を買収する動きも耳に入る。 利益動機によるものには違いないが背後の気配は不気味だ。

 NICTは13年1月、中国科学院・上海微系統研究所( SIMIT )と協力覚書に調印した。 重点協力分野は、 「 超電導 」 「 バイオ・エレクトロニクス 」 「 テラヘルツ( 光波と電波の中間域にある電磁波 ) 」 の3つ。 テラヘルツは超高速大容量通信手段となる。 NICTは民生用をめざすが、人民解放軍系と目されるSIMITの思惑がそうだとはとてもいえまい。

 12年にはシンガポールで、テラヘルツ用素材の米国人技術者が怪死した。 この事件について英フィナンシャル・タイムズ紙は13年、解放軍系と米政府がみる中国の通信機器大手の関与疑惑を報道。 シンガポール政府の判定は 「 シロ 」 だが、今年7月に米CBSが同当局による重要証拠物件破壊を特報するなど、米国側の関心は依然として高い。

 理研やNICTの研究連携先の総元締めである 「 中国科学院 」 は純然とした科学研究を装い、中国全土で114件もの研究所群を統括する。 傘下の研究所は党指令に応じて共同体制を組む。 SIMITもSIOMもサイバー戦争や大量破壊兵器開発のような軍事プロジェクトで結集するし、他の研究所も党や軍の要請に応じて軍事技術研究に関わる可能性がある。

 東大医科学研究所は中国科学院微生物研究所と分子生物学や分子免疫学で協力しているし、独立行政法人 「 物質・材料研究機構 」 は中国科学院大連化学物理研究所と燃料電池の共同研究に取り組んでいる。 これらは民生用に見えるが、中国側は随時、日本の技術研究成果を軍事用に生かそうとしている点を見落とすべきではない。

 中国は対米や対日サイバー攻撃の激化にみられるように、習近平体制のもとで、鄧小平氏が敷いた 「 韜光養晦とうこうようかい( 自分の能力を隠す一方で力を蓄える ) 」 というソフト戦術を全面放棄し、力をむき出しにして取るべきものを最大限取っていく路線に転じた。 脇の甘い日本の研究機関は絶好の標的に違いない。

 日本政府と関係機関は、古色蒼然こしょくそうぜんとした 「 日中友好 」 路線と決別し、虎の子の最先端技術が流出して日本国と国民をかみ砕く牙にならないようにすべきなのだ。