( 2014.02.18 )

 

  

 最近偶然、長年中国でビジネスを担当していた友人と、中国に生産拠点を展開している中小企業の経営者の3人で、一緒に話をする機会があった。 世界的に注目を集めている最新の中国事情について、生の声をヒアリングできるチャンスは極めて有効だった。 今回は、彼らから聞いた最新の中国事情をありのままに伝えたいと思う。 そのため、コラムのタイトルを “最新中国事情” 伝聞録と称した。

 現在の中国事情に詳しい2人が話してくれたことには、いくつかの共通点があった。 その1つは、大気汚染が非常に深刻 なことだ。 わが国でも、PM2.5が話題になっているが、北京などの大都市では汚染がひどくて、時には前がよく見えないこともあるという。

 2つ目は不動産価格の上昇だ。 中国の都市部、特に北京や上海などの都市部では、依然としてかなり大規模な不動産ブームが続いているという。

 中国の公式発表でも、北京などの不動産価格が前年対比で4割以上上昇しているところがある。 彼らが実際に中国で生活している実感としては、都市部の不動産価格の上昇はさらに激しいという。 むしろ、めぼしい物件自体が少なくなっているようだ。

 もう1つの共通項は、中国の富裕層が資産を海外に移している という点だ。 両氏とも、 「 中国のお金持ちはあまり祖国を信用しないので、彼らの中には資産や家族を海外の先進国に移している人もいる 」 という。

 彼らの話の中で気になったのは、日本企業に限らず海外企業の中には、中国ビジネスから手を引きたいと考えているところが多いという点だ。 しかし、中国から抜け出したくても、今後の需要増加を考えるとなかなか思い切って出ていけない企業や、法律制度などの縛りで出ていけない企業が多いようだ。

 中国で生活してきた2人が肌で感じる経済状況は、過去2年程度の間にかなり変化したようだ。 リーマンショックによる経済の落ち込みに対して、中国政府は4兆元( 邦貨換算で約67兆円 )という未曽有の景気対策を実施して景気を支えた。


不動産投資や理財商品の行き詰まり、
身の危険を感じるほど深刻な環境問題


 それによって中国経済は活況を呈し、2012年まで世界経済の牽引役を果たした。 ところが、大規模な景気対策の効果が剥落すると経済活動は目立って落ち込んだ。 政府の発表では、今でも7%台の高成長を続けているというが、実際には成長率はさらに低下していると感じられることが多いという。

 そして2人が異口同音に語っていたのは、地方政府の不動産投資案件の行き詰まりと、それに関連した金融制度の問題だ。 地方政府は、担当地域の経済成長率を高めるために積極的に不動産開発を行っているのだが、最近開発物件の売れ行きの鈍化が鮮明化している。

 地方政府や民間企業の中には、高い金利を払って銀行以外のノンバンクなどから資金調達を行っているケースが多い。 いわゆる “シャドーバンキング” だ。 そうした資金の中には、返済が履行されない債権( 不良債権 )の割合が高いと言われている。

 今年1月31日、邦貨換算で約500億円の高金利の金融商品( 理財商品 )が、実際上の債務不履行となった。 今回は関連の地方政府や信託銀行などが肩代わりして、最終的にはことなきを得たものの、今後理財商品のデフォルトの可能性が高まると見られる。

 問題は、一般庶民がそうした理財商品をかなり保有しているということだ。 今後、理財商品のデフォルトが発生すると、それを保有する個人投資家の不満は政府などに向かう可能性が高い。 そうなると、共産党政権の基盤が弱体化することも考えられる。

 彼らのように中国に住んで、地方都市などで暴動が発生しているという話と接すると、中国経済の問題点が顕在化しつつあることを、肌で感じことがあるようだ。

 中国の富裕層の中には、資産を海外に移すと同時に、家族も安全な米国や欧州の国に移住させるケースが多いという彼らの話には、不気味な説得力があった。

 PM2.5などの中国の大気汚染問題については、わが国でも毎日のように情報が提供され、人々の注目を集めている。 確かに中国の映像を見ると、ひどい日にはよく前が見えないほど空気が汚染されていることがわかる。

 実際に北京に住んでいると、それは映像で見るよりもはるかに深刻だという。 映像では汚染の匂いなどを感じることはできないが、中国の特定の都市では、外を歩いているだけで気分が悪くなるほど匂いや汚染の程度が深刻だ。

 話を聞かせてくれた2人とも、 「 家族の健康が心配なので、1年以上前に日本に帰国させた 」 と言っていた。 尖閣問題発生以降、中国人の日本人に対する感情が目に見えて悪化し、それに加えて大気汚染の心配がある状況では、家族の安全を考えて早く帰国させたほうがよいという彼らのような判断は、十分に理解できる。

 もう1つ彼らが指摘していたのは、水や食料品の安全の問題 だ。 中国では、工業化の過程で汚染や公害への対応が大きく遅れたこともあり、重金属などによる河川や湖などの汚染がかなり深刻だ。

 特に 水が汚染されている ことが多く、安心して飲める水が限られているという。 また、汚染された水が農作物などに散布され、それによって食料品も汚染される可能性が高い。 彼らは、 「 中国のお金持ちは、中国産の野菜など食べない 」 と冗談のように言っていた。

 新聞やテレビなどで報道されることはあまりないようだが、実際に地方などでは、汚染によって多数の人が健康障害を起こしたり、死亡事故が発生するケースを耳にすることがあったようだ。 それに対して、人々が激しい反対運動を起したりすることもあるだろう。 また、それが大規模な暴動に発展することも考えられる。 「 中国での暴動の件数は、年間20万件にも及ぶ 」 との観測もあるという。


ジョージ・ソロスも重大な懸念を持つ?
金融市場が恐れる“チャイナショック”


 中国に関してさらに懸念されるのは、中国の金融市場の機能が破綻して、中国経済全体が大混乱することだ。 最近、有力投資家の中にもそうしたリスクに関する意識が高まっている。

 著名投資家のジョージ・ソロス氏は、中国経済に重大な懸念を持っており、コラムの中で 「 向こう2~3年の間に、中国経済が混乱する可能性が高い 」 と指摘している。 金融市場では、すでに 「 同氏が人民元建ての資産の売りオペレーションを行っている 」 との観測もある。

 中国の金融市場で最も懸念されるのは、非正規のルートを通した資金貸借、いわゆる “シャドーバンキング” と呼ばれる金融部分だ。 今まで、中国はそうした非正規の資金貸借の信用創造に依存して、高成長をしてきた。

 有体に言えば、怪しげな借金に頼って信用創造で経済を高成長させてきたのである。 そうした借金によって不動産投資を行い、不動産価格を押し上げてきたと言える。 1980年台中盤以降にわが国で資産バブルが起き、2000年代中盤に欧米諸国で不動産バブルが燃え盛ったのと同じ現象が、今中国で起きている。

 バブルはいつか破裂する。 ソロスは破裂の時期が近いと警告している。 実際に、中国のバブルが崩壊( チャイナリスクが顕在化 )すると、そのインパクトが世界経済に及ぼす影響は計り知れない。


「その時期」 はいつ来るのか?
逃げ出したい中国の現状を直視せよ


 中国経済が低迷すると、中国における需要の割合が高い一次産品の価格が下落し、その影響は主に新興国で顕在化する。 すでにその傾向は鮮明化している。 アルゼンチンやブラジル、インドネシアや南アフリカなどが、その影響が最も顕著に顕在化しているケースだ。

 ただし、中国の金融商品は、かつての米国の住宅ローン担保証券( MBS )のように、世界の投資家の中に広まっていない。 そのため “チャイナリスク” の顕在化が、海外の金融市場に影響を与える度合いは限定されるはずだ。

 しかし、先進国の多くの有力企業は中国への直接投資などでつながりを持っており、 “チャイナリスク” で無傷ではいられない。 また、中国ほどの大規模な経済が混乱すると、世界的に株式や為替の市場が一時的に機能不全化することも考えられる。

 そうした事態を想像するだけでも恐ろしい。 ただ、現在の中国の状態が続く限り、いつかは “チャイナリスク” が表面化することは避けられないと見る。 問題は、その時期が特定できないことであろう。


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( 2015.08.25 )


 人民元切り下げをきっかけに、中国経済の自壊が始まった。

 チャイナリスクは世界に広がり堅調だった日米の株価まで揺さぶる。 党が仕切る異形の市場経済が巨大化しすぎて統制不能に陥ったのだ。 打開策は党指令型システムの廃棄と金融市場の自由化しかない。

 中国自壊はカネとモノの両面で同時多発する。 11日に元切り下げに踏み切ると、資本が逃げ出した。 党・政府による上海株下支え策が無力化した。

 12日には自動車や鉄鋼・金属関連の大型工場が集中している天津開発区で猛毒のシアン化ナトリウムの倉庫が大爆発した。 天津爆発の翌日は遼寧省で、22日には山東省の工場が爆発した。 過剰生産、過剰在庫にあえぐ企業はコストがかかる保安体制で手を抜く。 党官僚は、企業からの賄賂で監視を緩くする。 党内の権力闘争もからむだろうが、基本的には党指令体制が引き起こした点で、工場爆発は元安・株価暴落と共通する。

 鉄鋼の場合、余剰生産能力は日本の年産規模1億1千万トンの4倍以上もある。 自動車産業の総生産能力は年間4千万台を超えるが、今年の販売予想の2倍もある。 これまでの元安幅は4~5%だが、輸出増強に向け、もう一段の元安に動けば資本逃避ラッシュで、金利が急騰し、逆効果になる。

 過剰生産自体、党による市場支配の副産物である。 鉄鋼の場合、中国国内の需要の5割以上が建設、不動産およびインフラ部門とされるが、党中央は2008年9月のリーマン・ショック後に人民銀行の資金を不動産開発部門に集中投下させて、ブームをつくり出した。 自動車の過剰生産も構造的だ。 党内の実力者たちが利権拡張動機で、影響下に置く国有企業各社の増産、シェア競争を促す。

 需給や採算を度外視した企業の行動は通常の場合、万全とはいえないとしても、銀行や株式市場によってかなりの程度、チェックされる。 ところが中国の場合、中央銀行も国有商業銀行も党支配下にある。 株式市場も党が旗を振れば金融機関もメディアも一斉に株価引き上げに奔走する。 その結果、株価は企業価値から大きく乖離し、典型的なバブルとなる。

 おまけに、中国主導のアジアインフラ投資銀行設立と 「 元国際化 」 に執着する習近平政権は実体経済の不振にもかかわらず元高政策を取り続け、デフレ圧力を呼び込んできた。 結局、元安調整に転じたが、カネが一斉に逃げ出した。

 党指令型経済の破綻はもはや隠しおおせない。 習近平政権は不正蓄財を摘発しても、党権益全体の喪失につながる抜本的な改革に踏み出せるはずはない。

 国際金融の総本山、国際通貨基金( IMF )はやんわりと元の変動相場制の移行や金融自由化を促し始めたが、安倍晋三政権はこの際、米国と結束し、欧州や他の新興国とも連携し、中国に対して早期実行を迫るべきだ。 さらに、財政・金融両面でアベノミクスの再強化を図るときだ。





( 2015.11.01 )

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 そんなに成長しているはずがないとわかっていながら、これまで、誰も中身を知り得なかった中国のGDP。 政府によって管理されていたブラックボックスを開け、 「本当の数字」 を導き出す。



 各地で廃墟と化した工業団地や商業施設、上海株の大暴落、人民元の対ドル相場切り下げ……。 中国経済の大失速が顕在化し、 「 チャイナリスク 」 の恐怖が叫ばれるなか、10月19日、中国国家統計局によってある重要な数値が発表された。

 7-9月期のGDP統計だ。

 中国経済はいま、どれほど落ち込んでいるのか。 チャイナバブルと言われた勢いは、いったいどこまで失われてしまったのか。 政府によってコントロールされた統計であるとはいえ、今回の発表でその一端を知り得ることができると、市場関係者の間で大きな注目を集めていた。

 そんななか、打ち出された数値は、前年同期比6.9%増。

 なんという芸術的な値だろうか。

 事前の市場予測は6.8%。 中国政府が目標とする数字は7%だったので、そのちょうど真ん中に 「 落とし込んだ 」 わけだ。

 この数字を作り出した中国国家統計局の担当者の心中は、容易に推しはかれる。

 7%成長は、習近平国家主席が公言している国家目標。 しかし、中国経済の実情がひどいものになっていることはすでに知られており、7%という数字を出せば、世界中の市場関係者から 「 嘘つき 」 と非難を浴びてしまう。 かといって、7%を大きく下回る数字を算出すれば、習主席の逆鱗に触れて自分のクビが危ない。 こんな葛藤から、6.9% ―。

 だが、はっきり言って、この6.9%増という数字は、まったくのデタラメ。 「 真っ赤なウソ 」 である。

 かつてのソ連がそうであったように、社会主義国では、メンツが重視される。 そのため、統計数字の割り増しは日常茶飯事。 経済学における数多くの研究も、社会主義国の統計があてにできないことをとっくに明らかにしている。 当然、中国のGDP統計も到底信じられない。

 そもそも、中国のGDP統計は、発表時期からしておかしい。 中国の7-9月期GDPは10月19日に発表されたが、これはアメリカの2週間前、日本やユーロ諸国の1ヵ月前にあたる。 異常ともいえる早さだ。

 GDP統計は、各種統計の加工・二次統計なので、算出には一定の時間が必要である。 先進各国が知識や技術の粋を集めて算出しているのに、中国だけがこんなに早く発表できるということ自体、きちんとデータを精査していない証左だ。

 では、中国の 「 本当のGDP成長率 」 はどれほどなのか。 独自のデータから中国経済を分析。 真のGDP統計を導き出した。

 だが、その試算を発表する前に。

 まずは中国のGDP統計がいかにでたらめか、そのなかで信頼のおける統計データは何か、を見ていこう。




 先進各国のGDPが正しいかどうかは、いくつかの指標によって分析されている。 それらを中国に当てはめて見ていきたい。

 まず、GDPの成長率と負の相関関係があるとされているのが、失業率だ。 つまり経済成長すれば、失業率は減る。 これは経済学の世界では、オーカンの法則として知られている。

 中国が発表した今年3月の失業率は4.055%。 前年同期の4.08%をやや下回る程度だった。 GDP7%増という経済成長を遂げているならば、失業率はもっと劇的に下がっているはずだが、そうはなっていない。

 そもそも、中国では全国を網羅した失業率の調査も実施されていない。 中国での失業率の正式名称は 「 登記失業率 」 といい、これは政府に 「 登録された者 」 しか含まれていない。 事実上は失業しているが、確認が取られておらず、 「 登記失業率 」 に入らない者が非常に多いのだ。

 失業率だけでなく、物価もまた、GDP統計を分析する上で重要視されている。 経済学におけるフィリップス曲線をもとにすれば、GDP成長率と物価は正の相関関係にあることになる。 GDPが増えれば物価もまた上昇するのだ。

 中国における9月の物価上昇率は、前年同月比で1.6%。 確かに上昇してはいるが、そもそもこの数値をどのように算出しているのかが、まったく見えないのが問題だ。

 中国の物価統計は、GDP統計以上に驚異的な早さで公表される。 9月の消費者物価指数の発表は10月14日。 国土の狭い日本ですら、10月30日であるにもかかわらず ……。 物価統計は多くの品目を綿密に調べるため、算出に時間がかかる数値。 国土が広い中国がどう調査しているのか、その方法は謎に包まれている。

 これまで述べてきたとおり、中国の統計を握っているのは 「 政府そのもの 」。 失業率、物価上昇率といったデータは信用できず、 「 本当のGDP成長率 」 がどうなっているのかを知ることは極めて困難だ。

 だがそれでも、類推することはできる。

 中国にも、 「 まともな統計 」 としてある程度信用できる指標がある。 貨物輸送量、電力消費量、銀行融資残高の3つだ。

 その根拠は、内部告発支援サイト 「 ウィキリークス 」 が、 07年に公開した李克強首相の発言。 李氏は遼寧省党委書記を務めていた当時、 「 中国のGDP統計は人為的であるため信頼できない。 経済評価の際に重視するのは、貨物輸送量、電力消費、銀行融資だ 」 とはっきりと語っている。

 「 李克強指数 」 といわれるこれら3つの指標を正しいとして、GDP統計を算出した調査結果がある。 それによれば、 15年のGDP成長率は2.8%。 中国が発表した6.9%増の半分以下だ。

 だが、試算ではこの数字はまだ甘い。 中国の 「 本当の成長率 」 はさらに厳しいものだ。

 中国のGDP統計を算出する上で、 「 李克強指数 」 以上に信頼できる指標がある。

 それは、輸入統計だ。 中国の輸入は相手国から見れば輸出にあたり、その値は各国が公式に発表しているのだから、輸入統計は誤魔化すことができない。




 中国の今年1~9月の輸入総額は、前年比15%も減少している。 輸入が前年比10%以上も減少しているときに、GDPがプラス成長ということはまずあり得ない。 絶対に、と言ってもいい。 6.9%増などもってのほかだし、2.8%すらも大きく下回っていることは間違いない。

 そう言い切れる理由は、10ヵ国以上の世界の先進国の輸入の伸び率とGDP成長率が、確かな正の相関関係にあることがわかっているからだ。 このことは、 「 一つの変数が、もう一方の変数にどれだけ影響を及ぼすか 」 を導き出す、回帰分析という手法によって明らかにされている。

 ではそこに、マイナス15%という中国の輸入伸び率を当てはめるとどうなるか。 導き出されたGDP成長率は、驚くべき数値になった。

 「 マイナス3%成長 」

 これが試算した、中国の 「 本当のGDP成長率 」 だ。

 いまは隠されているが、GDPマイナス3%という中国経済の実態が表面化すれば、中国に進出している各国企業は、我先にと 「 撤退 」 を始めるかもしれない。 そうなれば、08年のリーマン・ショック以上の危機が、中国発で勃発することになるだろう。

 当然、日本にも多大な影響がある。 リーマン・ショック直後、 08年10-12月期のアメリカのGDP成長率はマイナス5.4%。 これに対し日本は、実にマイナス10.2%という大幅な落ち込みとなった。

 「 中国ショック 」 が起きれば、アメリカよりも震源地が近いだけに、影響はリーマン・ショック以上になるはずだ。

 もっと言えば、この状況下で、 17年4月から10%への消費増税を行えばどうなるか。 今年の経済財政白書では消費増税の日本全体への影響が分析されていて、仮に中国ショックがなかったとしても、 17年度の経済成長率はマイナスになるとされている。 そこに中国ショックが重なれば、日本経済は大げさではなく、沈没する。

 中国に何が起きているか。 見せかけの数字に惑わされてはならない。





( 2015.11.03 )



 人民元が採用される見込みの
 SDRとはそもそも何か


 中国政府の悲願である、人民元のSDR入りが目前だが ……

 国際通貨基金( IMF )は、中国の人民元をIMFの特別引き出し権( SDR = Special Drawing Rights )に採用する見込みと報道されている。

 実際に、11月のIMFの会議で採用が決まると、人民元は名実ともに国際通貨としての地位を確立できる。 中国にとって、人民元が有力な国際通貨としてのお墨付きを受ける意味は小さくはない。

 元々、IMFは、国際金融や為替の安定性を維持するために、外貨事情が悪化した国に対して、必要な資金を貸し付けて救済することを目的に創設された国際機関だ。

 それぞれの加盟国はあらかじめIMFに資金を拠出し、その出資比率に応じて必要なときに資金を借りる権利を持つ。 SDRは借り入れを受ける権利のことであり、また、借り入れを受けるときの資金の単位でもある。

 現在、SDRの価値を算出するときに採用されている通貨は、ドル・ユーロ・ポンド・円の4通貨であり、これらの通貨を加重平均する = バスケット方式によってSDRの価値を算定する仕組みになっている。

 バスケット方式で算定する意味は、4つの主要通貨を加重平均することでSDRの価値をより安定させるためだ。 そのバスケットの中に、世界第2位の経済大国である中国の人民元を入れることで、さらに安定性を強化することが期待できる。

 一方、日米両国は今まで、人民元が中国政府の厳しい管理下にあり、自由な売買が担保できないとして慎重なスタンスを取ってきた。

 しかし、中国経済の台頭と、英国やドイツなどの欧州諸国が親中国政策を取り始めていることもあり、人民元のSDR採用を容認せざるを得なくなった背景がある。


 IMFからの融資に使われるSDR
 2015年は“バスケットの見直し”の年


 IMFは、1944年に米国のブレトンウッズで国際連合の専門機関として創設された。 現在の加盟国は180ヵ国を超えている。

 IMFの主な役割は、加盟国が経常収支の悪化などで外貨繰りに窮する場合、必要な資金を融資することで当該国を救済することであり、最終的に国際貿易の促進を図ると同時に為替の安定を目的とする。 IMFが行う融資の原資は、基本的には加盟国から受ける出資によって賄われている。

 実際にIMFから融資を受ける場合、直接IMFからの借り入れを行うこともできるが、1969年に創設されたSDRを使って他の加盟国から外貨を借り入れることが可能になった。

 具体的には、外貨の借り入れが必要な国は、保有するSDRを他の加盟国に渡し、それをドルなど必要な通貨に交換してもらうことになる。 SDRを受け取った国は、それを外貨準備に計上することができる。

 SDRは、金やドルなどの外貨準備資産を補完することを目的に考案された。 SDRは、IMFに対する出資比率に応じて各国に割り当てられるが、その金利水準は、バスケットを構成する通貨の市場金利の加重平均によって算出される。

 当初、SDRの価値は金を基準にしていたが、74年からは主要16通貨の加重平均によるバスケット方式に改定され、現在は、ドルなど主要4通貨のバスケットになっている。 バスケットの中身は5年毎に見直しされる。

 2015年が見直しの年に当たることもあり、英独など欧州諸国の強い支持を受けて人民元をバスケットに入れることが議論されることになった。


 IMFの基準に当てはまるのか?
 特殊な通貨である人民元


 IMFは、バスケット通貨の算定について2つの基準を設定している。 1つは、加盟国が発行する通貨の中で、過去5年間で財・サービスの輸出額が最も多いこと。 もう1つは、自由に売買が可能な 「 自由利用可能通貨 」 であることだ。

 2つの基準に照らして人民元を考えると、まず1つ目については何も問題はない。 近年の中国の輸出額を見ると、その基準をクリアしていることは明らかだ。

 問題は2つ目の基準だ。 人民元は、必ずしも自由に取引が可能とは言えない。 現在の人民元の取引は、中国本土内の取引 = オンショア人民元( CNY )市場と、香港中心の本土外の取引 = オフショア人民元( CNH )市場とに分かれている。

 本土内での取引は、中国人民銀行の強い管理体制の下で行なわれており、実際の為替レートは事実上、人民銀行が決める水準に限られる。

 現在では、人民元のレートは、基本的にドルとほぼ連動している。 ただしドルと厳格に固定されているわけではないため、緩やかなドル連動制 = ソフトドルペッグ制と呼ばれている。

 一方、香港を中心とした本土外での人民元の取引は、中国政府の厳しい規制が及ばない。 そのため、国境を跨いだクロスボーダーの決済や、為替レートの変動の制限などはなく比較的自由に取引が可能だ。

 そうした状況を考えると、人民元はドルやユーロ、円などに比べて取引の自由度はかなり制限されている。 米国やわが国はそうした点を考慮して、今まで人民元のバスケット入りに慎重なスタンスを取ってきた。

 それに対して中国政府は、今後、一段と人民元の国際化を促進すると表明しており、今年8月11日に、事実上の人民元切り下げを行ったときにも、当該措置は国際化への一環と説明していた。11月2日、中国人民銀行は2005年の人民元改革着手以降で最大となる大幅な人民元切り上げを行ったが、これもSDR入りを意識したものとみられている。


 中国に接近する欧州諸国が後押し
 日本はどう対応すべきか


 中国政府はこれまでにも、人民元をSDRのバスケットに組み入れて、主要国際通貨の1つとの認識を受けることを積極的に働きかけてきた。

 近年、そうした動きに対する強力な援軍が出てきた。 英国やドイツなどを中心とする欧州諸国が、中国政府の要請を明確に支持するスタンスを取り始めた。 そのため、中国をめぐっては、同国に接近する欧州諸国 vs. 距離を置く日米の構図が鮮明化しつつある。

 一部の欧州諸国が親中国のスタンスを明確にし始めた背景には、人口減少などの問題を抱えて安定成長期にある欧州経済にとって、13億人の人口を抱える中国が巨大消費地としての重要性を増していることがある。

 特に、強力な輸出産業を持つドイツは、中国市場への積極的な進出によって世界市場でのマーケットシェアを拡大しており、今後もそうした展開を進めることが最大課題の1つになっている。

 スコットランドの独立や、EUからの脱退などの問題を抱える英国にとっても中国の存在は大きい。 10月の習近平主席の訪英時には最大限の歓待の意図を示し、原子力発電所建設に係るプロジェクトにも中国からの支援を受ける意向を示した。

 また、金融の都 = ロンドンを抱える英国にとって、人民元の決済口座をロンドンが確保し、今後、拡大が見込まれる人民元取引を集中させたいとの意図は明確だ。 そうした英国政府の姿勢については、同国内から 「 やり過ぎ 」 との批判が出ているものの、当面、親中国のスタンスは変わらないだろう。

 世界の覇権国であり、長年にわたって主要欧州諸国と強力な同盟関係を維持してきた米国にとって、英国やドイツなどが露骨に中国になびきつつあることは予想外の展開だったかもしれない。

 特に、南シナ海での強引な人工島建設に伴う問題が顕在化している現在、米国の意図を軽視する欧州諸国の態度には困惑を感じざるを得ないはずだ。 中国との領土問題を抱えるわが国にとっても、そのスタンスは好ましいものではない。

 ただ、わが国にとって、欧州諸国と正面から対立する構図は得策ではない。 今後の主要国の態度を注視すると同時に、冷静な大人の態度が必要だ。

 足元で中国経済の減速は明確化している。 かつてのような高成長を望むことはできないだろう。 中国経済のエネルギーが低下すると、したたかな欧州諸国は新中国一辺倒の政策運営はできなくなるはずだ。 そうした変化を敏感に掴み、上手く使うことを考えればよい。


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