( 2015.10.03 )

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 ド派手な軍事パレードで、散々日本に悪態をついた習近平主席が、経済失速で悲鳴を上げ、日本にすがろうとしている。 習近平政権は一体何を考えているのか。 この矛盾に満ちた大国のホンネを追った。



 9月9日から11日まで大連で行われた 「夏のダボス会議」。 世界中から集まった多国籍企業のトップの気持ちを代弁するかのように、三菱商事の小島順彦会長が、北京から駆けつけた李克強首相に質問した。
「最近の中国の株式市場や債務に対するリスクが、世界の注目を一身に浴びています。 中国政府はどのような金融改革を行う気なのですか? 金融改革を進めるにあたって、具体的なスケジュールはあるのですか?」
 壇上の李克強首相は、やや緊張した面持ちで答えた。
「最近、国際金融市場で発生している新たな波は、2008年の世界的な金融危機の延長線上にあるものだ。 中国の株式市場は6月と7月に非常事態に陥ったが、政府がすでに適切な措置を取って、リスクの蔓延を防いだ。 もはやシステミックな金融パニックは解消したのだ」
 このように李克強首相は、必死に弁明したが、3日間にわたる討論は、中国経済に対する疑心暗鬼一色だったという。

 長年参加しているEUの企業経営者が明かす。
「そもそもダボス会議というのは、毎年1月にスイスのダボスで行われる 『経済界のサミット』 ですが、今世紀に入って、議論の中心が中国経済の躍進に移ってきたため、'07年より毎年9月に中国で 『夏のダボス』 を開くようにしたのです。 ところが今年は、世界の企業経営者たちが、 『中国発の世界恐慌が起こるのではないか』 『中国の経済統計はどれもデタラメではないか』 などと発言。 中国政府の官僚や国有企業経営者たちに詰め寄る姿が、あちこちで見られました」



 これに対して、中国側は、 「中国経済は問題ない」 と説明するばかりか、 「攻勢」 にも転じたという。 日本人参加者が語る。
「われわれ日本人を見ると、中国の経済官僚や国有企業の幹部たちが、妙に優しく迫ってくるのです。 『中日両国が肩を組んでこそアジアは発展する』 などと言っては、慇懃な態度で握手を求めてくる。 わずか数日前に、あんなにド派手な 『抗日軍事パレード』 をやっていた国とは思えませんでした」
 同様の光景は、9月4日と5日にトルコの首都アンカラで行われたG20( 主要国サミット )の財相・中央銀行総裁会議でも見られた。

 会議に同行した日本の経済官僚が語る。
「今回のG20は、まさに中国経済の急失速に対する懸念一色でした。 そのため、中国代表の楼継偉財政部長と周小川中国人民銀行総裁は、食事するヒマもないほど、各国から上がる疑念の声に対する火消しに追われていました。 ついこの間のギリシャ危機の時まで、実に偉そうな態度で、 『最後は中国がパルテノン神殿を買ってやるからな』 などと嘯いていたのとは対照的です」
 そしてここでも、中国側から日本の官僚たちへのラブコールが相次いだという。
「6月に北京で3年ぶりの日中財務対話を開いて以降、日中の経済官僚同士の個人的な交流が始まりました。 先日のトルコのG20では、そんな一人から、 『今年中でなくても構わないから、日本に何とか早期にAIIBに加盟してほしい』 と、非公式に頼まれたのです」( 同・経済官僚 )
 AIIB( アジアインフラ投資銀行 )は、今年12月に、北京を本部にして発足する新たな国際開発銀行である。 日米が中心になって1966年に創設したADB( アジア開発銀行 )に中国が対抗し、57ヵ国を集めて、鳴り物入りで創設する。6月末には習近平主席が主催し、北京で盛大な設立協定の調印式を開いた。

 だが創設前に早くも、うち7ヵ国が不参加となる可能性が出るなど、チャイナ・マネーの限界説が飛び交っている。 ちなみに日本は、麻生財務相が強硬に反対したことなどによって、参加していない。 アメリカも同様である。




 これまで約70冊の中国関連の著作がある中国ウォッチャーの宮崎正弘氏が解説する。
「一言で言えば、いま中国は、焦っているのです。 中国はもともと、自国のGDPを水増しして発表する習慣がありましたが、これまでは海外からの投資が相次いだため、ごまかせてきた。
 ところが3年前に、大規模な反日暴動が起こったことで、日本企業が次々と中国から撤退を始めました。
 急激な賃金上昇で、アメリカも手を引き始め、いままた南シナ海の埋め立て問題で、ASEANの企業が引き始めている。 このため海外からの投資が激減し、中国経済は底が抜けてしまったのです」
 たしかに今年上半期の対中投資は、前年同期比で日本が16.3%、アメリカは37.6%も減らしている。 世界最大の経済大国と、中国に次ぐ3番目の経済大国が、中国から引き上げにかかっているのである。

 北京の中国日本商会幹部も語る。
「俗に、日系企業2万3000社が1000万人の中国人を雇用していると言っていますが、いまはもう2万社を切ったかもしれません。
 中国がGDPの増加にこれほどこだわるのは、GDPの増加イコール雇用の増加と考えているからです。 このまま雇用が減り続ければ、ますます経済失速していき、失業者の増大が犯罪やデモを増やし …… という悪循環に陥ってしまうでしょう」
 こうした危機がヒタヒタと迫ってきていることは、習近平政権は百も承知である。 そのため、中国国務院( 中央官庁 )はあらゆる手段を使って、経済崩壊の引き金となるリスクを孕んだ株価下落を防ごうとしている。

 ゴールドマンサックスの試算によれば、この3ヵ月ほどで、中国政府が株価下支えに投じた金額は、2360億ドル( 約25兆円 )にも上るという。




 だが、市場は中国政府の改革をまったく信用していない。 そのため、中国株の代表的指標である上海総合指数は、 「レッドライン」 と呼ばれる3000ポイントのすぐ上を 「低空飛行」 するばかりだ。

 8月の貿易統計は、前年同期比で輸出額が6.1%、輸入額が14.3%も減らしている。 製造業の先行きを示すPMI指数も、8月に49.7と過去3年で最低水準。 また中国を代表する巨大国有企業の中国石油が、1兆元( 約19兆円 )を超す負債を抱えていることが発覚し、大騒ぎになっている。

 こうした経済統計を見る限り、長く躍進著しかった中国経済は、完全にメッキが剥がれてしまったのである。

 実際、数年前から 「鬼城」 と呼ばれるゴーストタウンが、中国各地で問題になってきたが、最近は都市部の 「鬼商城」 ( ゴーストデパート )が深刻化している。 消費がまったく伸びず、建てすぎたデパートが次々に倒産しているのだ。

 この上、日系企業が引き揚げれば、1000万人の中国人が職を失うことになる。 そこでさすがの 「反日闘士」 習近平主席も、背に腹は代えられないということで、日本企業の引き留めに躍起になっている。

 中国経済の分析が専門のシグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストが、そんな習近平主席の心情を推察して語る。
「これまで中国の製造業の牽引役となってきた自動車の販売台数は、7月に前年同月比で7.1%も減りましたが、日系メーカーだけは22.4%も伸ばしています。 これは、日本の製造業へのラブコールです。
 中国政府は5月に、 『中国製造2015』 という12ページからなる10年戦略をまとめました。 それを読むと、中国お得意のパクリや企業買収ではなく、25年かけて地道に製造業を発展させ、 『中国ブランド』 を確立しようと書いてあります。
 そうなると、日本企業の助力が絶対に必要です。
 習近平は一方で、抗日軍事パレードをやりながらも、本心では 『日本よ、中国の製造業を助けてくれ!』 という心境なのです」



 中国が日本に助けてほしいのは、製造業ばかりではない。
「中国政府は、アメリカ国債の 『売り』 に走りながら、一方で中国政府の資産運用機関である中国投資有限責任公司は、判明しているだけで116社もの日本企業の大株主になっています。 つまり、日本は 『買い』 なのです。
 特に、中国は'13年にサービス業が製造業をGDPで追い越しており、サービス業の育成に力を入れています。 そこも、サービス大国の日本を、ホンネでは頼りたいのです」
(田代氏)
 前出の宮崎氏も続けて言う。
「習近平主席は、9月22日から国賓待遇で訪米しますが、受け入れる側のオバマ政権は、冷たく対応するつもりでいる。 アメリカから悲しく帰国する習近平は、ますます日本に擦り寄ってくるでしょう。
 ただ、プライドが高いので、絶対に 『助けてください』 と頭を下げることはしない。 『両国で共同プロジェクトをやろう』 と持ちかけてくるはずです」
 日本経済が中国経済の動向に左右されるのも事実だが、世界の誰も中国を助けてくれなくなって、これまで散々コケにしてきた日本に助けを求める。 日本からすれば、 「何をいまさら」 という気にさせられてしまう、まことに困った隣人である。





( 2016.05.04 )




 アメリカを激怒させた 「反テロリズム法」

 2月27日、シャーマン米国務次官( 政治担当 )はカーネギー国際平和財団で講演を行い、尖閣諸島海域での日中間の緊張の高まりや中国・韓国における反日運動に関連し、 「第二次世界大戦の 『いわゆる慰安婦』 などの歴史問題」 に言及した。
「ナショナリスト的な感覚で敵をけなすことは、国の指導者にとって安直な称賛を浴びるが、それでは感覚が麻痺するにすぎず、進歩とは無縁である」
 特に 「いわゆる慰安婦」 と表現して、従来の 「強制連行」 「従軍慰安婦」 「性奴隷」 という中国や韓国の政治プロパガンダに疑問符をつけた点が注目される。 これは米国務省の対中、対韓国アプローチの変化を顕著に示唆しているからだ。

 その直後、オバマ大統領は中国が立法化をめざす 「IT規制法」 に、過激なレトリックを用いて注文をつけた。
「( 中国は )米国とビジネスを続けたいのなら( 新法の中身を )考え直すべきだ」
 米国の中国への苛立ちは、次の三点によるものと見られる。

 第一は、中国が執拗に仕掛けるハッカー戦争の脅威である。
 これまでのハッカー攻撃に業を煮やした米国は2014年5月19日に、米企業などに対するサイバースパイの容疑で中国人5名を起訴したが、最近の動きはさらに腹に据えかねるものがあったようだ。
 問題は、中国が全人代で上程準備中の 「IT規制法」 ( 別名 「反テロリズム法」 )だ。 これにより、米国IT企業が中国から一斉に総撤退するおそれさえ出ている。
 同法は、名目上はテロ対策だと言われているが、実際は外国のIT企業に対して、コンピュータ内部の電子情報の漏洩防衛目的の暗号の解読方法を治安当局に開示せよ、とする一方的な法律。 つまり、暗号技術の合法的な奪取である。
 暗号が解読されれば、データは改竄されやすくなる。 たとえば、政府や金融機関のプログラムに偽のデータを仕込んで偽口座への送金を命じることができるし、あるいは逆に外部からの信号を停止させることもできる。 最悪の場合は、世界の市場が破壊されると言ってよいだろう。
 それだけではない。 この新法は表向き 「反テロリズム法」 となっているが、実は中国が軍隊を海外へ派兵する基準も大幅に緩和される内容になっている。 ということは、外国で反中国活動をしている法輪功、チベット、ウイグルなどの民主派諸団体に対して実力行使を目的とした軍の派遣が可能になるのだ。 米欧は適宜対策を講じているが、日本は対策に出遅れ、いまだ安い中国製のIT製品が市場を席巻している。

 第二点は、米ドル基軸体制を脅かす 「アジアインフラ投資銀行」 ( AIIB )と 「BRICS銀行」 の設立である。 米国は、ドル基軸体制が脅かされる、と極度に警戒を強めた。
 英紙 「ガーディアン」 によると、中国主導のAIIBに英国が参加表明したことは “事件” であり、ウォール街は怒りに包まれたという。 同じく英紙 「フィナンシャルタイムズ」 は、オバマ政権に 「失望」 が広がっているとも報じられた。
 対照的に中国の媒体では 「英国の決断」 などとし、同行に加わらない日米に冷淡な反応を示している。 そして、日本のメディアはこの中国の言い分を強調して 「バスに乗り遅れるな」 と本末転倒の分析をしている
 そもそも、英国はすでに2年前からシティ( 金融街 )で人民元取引を認めており、同時に中国国債も取引されている。 同じくフランクフルト市場でもそうだ。 これは 「ウィンブルドン方式」 と言われ、市場関係者からみれば 「貸し会場ビジネス」、つまり 「有名なテニスの世界大会を開催し、たとえ英国選手の活躍がなくとも集まってくる( 外国籍の )人々が落とすカネが魅力である」 という意味だ。
 こうした文脈からいえば、英国のAIIBへの参加表明も、そこにシティがビジネス拡大の可能性を見たからであり、対米非協力への傾斜という政治的思惑は薄い。 もっと言えば、世界の金融世界を支配するシティルールの徹底のため、英国は定款などを協議する段階から監視と情報収集目的で加わるのである。
 ドイツとイタリア、フランスの参加表明は、ユーロが米ドルよりも強くなればいいという利己的な動機によるものである。 つまり、加盟すれば幾ばくかの情報が取れるだろうという打算に基づく。 そのうえ、ウクライナ問題でロシアを制裁している欧米は、中国が勝手にロシアに資金援助することも制御できる立場を得ることになるからだ。


 AIIB、三つの狙いを解明

 一方、日本の新聞を見ると、朝日をはじめとして 「日本がAIIBに参加しないのは乗り遅れ」 という錯誤的焦燥を演出し、参加しないことによる危険を煽っている
 しかし、そんな必要はない。 米国は今回の中国の動きを、戦後の世界経済を牛耳るブレトンウッズ体制( つまり世界銀行・IMF体制 )に中国が挑戦してきた、と認識している。
 かつて宮澤政権の時、日本が設立を目指したAMF( アジア通貨基金 )を構想の段階で強引に潰したように、ドル基軸に挑戦するような中国主導の国際機関の動きを今後、拱手傍観するはずがないだろう。

 そもそも、AIIBを設立する中国の究極の狙いは以下の三つ。
    ( 1 ) 人民元の拡大
    ( 2 ) アジアにおける人民元の覇権
    ( 3 ) 中国主導のアジア経済体制確立
 つまり中国は、いまや金融帝国主義であり、南シナ海での侵略行為によって四面楚歌となった政治状況を、金を武器に主導権の回復を狙って巻き返したのである。
 インフラ整備に悩むASEAN諸国並びにインド経済圏は、喉から手が出るほど欲しい資金を中国が供与してくれるのなら、自分たちの政治的行動は抑えるだろう。 露骨なのはカンボジア、ラオス、タイ、インドネシアなど。 つまり、反中国でまとまりつつあったASEANの団結を中国は攪乱かくらんしたのだ。
 新銀行は、貸し付け条件も金利の策定方法も審査方法もまったく白紙の状態であり、基本的に銀行のガバナンスを知らない国が国際銀行業務をスムースに展開できるのかどうかが疑問視されている。


 ニカラグア運河への不快感

 米国の中国への苛立ち三点目は、米国の “中庭” に中国がニカラグア運河を建設していることへの不快感だ。 中国は、米国の大きな権益であるパナマ運河に対抗するため、膨大な建設費を投じてニカラグアの東西を貫通させる運河を建設し、数年で完成させると息巻いている。
 スペインを罠に嵌めてフィリピン、キューバをとり、ニカラグア運河計画を最初にぶちあげたのは米国だった。 ところが、難事業とわかるやもっと南に目を向け、コロンビアを分断、パナマを独立させて運河を拓いた。 その米国の百年の野心と言えるニカラグア運河を中国が造ろうというのだから、米国は内心穏やかではない。
 そのうえ、ロシアが中国の運河建設を礼賛しているのだ。 ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣は、2015年2月にニカラグア、ベネズエラ、そしてキューバを訪問した。 いずれも中国が大々的な投資を行っている国々だが、遡ればソ連時代に “あちら側” だった国々である。
 セルゲイ大臣はニカラグアで軍艦寄港の二国間取り決めにサインし、また将来、ニカラグア運河完成の暁にはロシアの軍艦が通過するとした。
「これは重要な案件であり、ロシア軍艦が太平洋からメキシコ湾へ入れることを意味する。 ロシア海軍は長距離巡航ミサイルを装備した艦船を保有しており、これらがキューバの近海で遊弋ゆうよくすれば、米国の下腹部をいつでも襲撃可能となる。 これこそは、ロシア周辺国での米国と連携した軍隊の展開に対するロシアの回答である」
 これらの動きに対し、親中派筆頭とされたヘンリー・キッシンジャーですら次のように発言している。
「中国は平等な国家からなる世界システムに馴染めず、自国を世界のトップ、唯一の主権国家と考え、外交は交渉よりも世界階層秩序での各国の位置づけを決めるものと考えている。 もし、中国が他国に 『既存システムか、中国主導の新秩序か』 の選択を迫るとすれば、アジアでの新冷戦の条件を作り出しかねない」

 親中派が衝撃的な予測

 キッシンジャーだけでなく、米国論壇は雪崩のように中国への姿勢が強硬になった。
 その典型が、デーヴィッド・シャンボー( ジョージワシントン大学教授。 ブルッキングス研究所シニア・フェロー )の変節的論文である。
 彼はこれまで中国での国際シンポジウムに頻繁に招かれ、北京で一年暮らした体験がある。 改革開放を前向きに賞賛し、キッシンジャーやエズラ・ボーゲルと並んで 「チャイナ・スクール」 の仲間と思われていた。 中国に関しての著作も十冊近く出している。
 ところが、そのシャンボーがこれまでの親中派の立場を変えたのだ。 『ウォールストリート・ジャーナル』 ( 3月6日 )に寄稿し、 「中国共産党体制は崩壊へ向かって走り出した」 と衝撃的な予測を発表した。
 博士は2014年に北京に招かれた学会で、中国人学者たちからそれまでの自由闊達な態度が消え、窮屈そうに決まり切った言辞しか吐かず、表情が凍り付いていた場面に遭遇した。 そして、共産党内部で繰り広げられている文革のような権力闘争と粛清の嵐の渦中にもがく知識人のひ弱さ、蔓延る汚職、高官子弟らの海外逃亡の奔流を目撃した。
 対中ハト派の代表格アイキャンベリーも 『フォーリン・アフェアーズ』 に寄稿して、 「中国に失望した」 と書いた。
 シャンボーの言う共産党体制崩壊は ── 第一に権力側の腐敗、第二に経済縮小、第三に大気汚染を放置した公害対策無策、第四に自由民主勢力への弾圧が西側とは価値を共有できず、第五に狂気の軍拡などで崩壊に到る ── とし、こう結論づけた。
「一旦、この体制が崩れ始めると中国は長期的かつ複雑に停滞し、より暴力的な社会となるだろう」
 強い衝撃を受けた中国は、人民日報の大衆版 『環球時報』 で、
「氏はかつては中国に穏和的で理解ある所論を多く発表してきた良心的な学者だったが、今度は中国共産党が最後の時を迎え始めた等と空虚に吠えだした」
 と猛烈に批判し、 「このような米国学者の敵対的な中国分析は考え直したほうが良い」 と続けた。


 米親中派の転身

 日米安全保障条約によって国家の安全保障を米国に依存している日本は、長く平和のぬるま湯に浸かりきっていた。 だから、大多数の日本人は現在の危機が招くであろう次の危機を正確に認識できていない。 最大の脅威である中国に対し、日本人の多くがいまも甘い幻想を抱いている。
 2001年まで米国は、中国に対して 「軍事的対峙を曖昧なものにする」 というクリントン政権以来のふやけた姿勢を続行していた。 これは、米国が強く出るか弱く出るかはその時の国際環境次第で、 「曖昧にしておく」 というところがミソだ、とクリントン大統領はにやにや笑いながら発言したことがある。 共和党からは、 「 『曖昧戦略』 は戦略とは言えないのではないか」 と強い批判もあった。
 ところが2001年の9.11テロ事件以後、ブッシュ・ジュニアは中国を 「戦略的パートナー」 と賞賛し、対テロ戦争での協力を求め、中国に戦略的に近づくという過ちを犯した。 ロバート・ゼーリック国務副長官は 「中国とはステーク・ホルダー( 利益共同者 )」 と高い評価をし、ブレジンスキー元大統領補佐官に至っては、米中は 「G2」 の関係と持ち上げた。 置いてきぼりにされた日本では、 「ジャパン・パッシング」 といった自虐的な修辞がメディアに並んだ。
 2008年の北京五輪前後まで、米中関係はまるで蜜月だった。 米国は中国の軍拡の実態にはひたすら目をつむり続けてきた。
 だが、胡錦濤はそれまでの 「韜光養晦とうこうようかい」 ( 牙を隠せ )路線を静かに変えていった。 徐々に軍事的野心を剥き出しにし、 「アジアの覇権」 を公言するようになり、南シナ海で横暴な軍事行動を採り始めた。 尖閣諸島も中国領だと言い出し、民間漁船に偽装した中国海軍が無数に領海侵犯を繰り返し、尖閣上空を含む空域に一方的な 「防空識別圏」 を設置した。
 日本だけではない。 たとえばフィリピンなどが領有する海域のスプラトリー諸島では、ガベン礁にヘリポートと軍事施設を完成させ、ヒューズ礁にはサッカー場14面分の面積に高射砲陣地が、ファイアリークロス礁には軍港と滑走路が建設されている。 ベトナム領海の永興島には2600メートルの滑走路が完成している。
 胡錦濤に続いて、毛沢東を尊敬するという習近平の登場により、中国はあからさまな 「大国意識」 を前面に出し、高らかに 「アジアの覇権」 を謳って周辺諸国を不安に陥れた。
 国際政治学の泰斗、ジョン・ミアシャイマー教授はこういった中国の動きを次のように分析している。
1. 中国の野心は米国をアジアから追放したい。
2. 中国がアジアの覇権を握りたい。 競合するのはロシアと日本、インドである。
3. 現在の領土体制を変えたい。 つまり尖閣諸島、台湾を奪取し、南シナ海までを 「中国の湖」 としたい。
 オバマ大統領はクリントン政権以来の 「曖昧戦略」 を反古にするかのように、2011年末に 「アジア・ピボット」 を言い出し、中国の軍拡にそれなりの対応を見せ、アジアへの軍事力シフトを明確にした。
 ヒラリー国務長官( 当時 )は、 「G2は存在しない」 と宣言し、返す刀でミャンマーへ飛んでティンセイン大統領と会見、それまでの経済制裁を解いた。 この時点で、米国は静かに中国囲い込み戦略を開始したのだ。


 支配を始める「大国の宿命」

 日本でも西欧でも、冷戦が終結してから中国の軍事的台頭が露骨となるまで、左翼リベラル派がメディア・論壇を席巻していた。 欧米マスコミは中国、韓国の日本叩きにも同調し、日本を批判する傍らで中国を高らかに褒めそやしてきた。 だが、環境が激変し、米国の姿勢が中国に厳しくなると、メディア・論壇の中国観も変わった。
 米国の左派は 「人権」 を楯にひたすら民主化を要求するという基本路線を拡大し、中国の軍事的脅威という現実を前に強硬姿勢を取り始めたのだ。
 米国の対中国観の主流としては、チェイニー元副大統領の安全保障担当補佐官だったアーロン・フリードバーグ( プリンストン大学教授 )が登場、米国の軍事的優位を維持し、日本などとともに中国封じ込め戦略を提唱したのである。
 前出のミアシャイマーも、ブレジンスキーらの言う 「オフショア・バランシング」 ( たとえばリビア空爆のように、遠くからの空爆などで米国は関与する )という消極的関与を批判し、たとえば日本が一国で中国と対峙するのは不可能なのだからオンショアに打って出よ、と提唱した。
 そんなミアシャイマーの提唱に対し、戦略研究家のエドワード・ルトワックは 「ツキディデスの罠」 ( 新興勢力は既存の支配勢力と衝突しがちになるという意味 )という表現を用い、 「ある大国が登場し、周囲に脅威を与えるようになると、周辺国はそれまでは交信が希薄でむしろ敵対的であった関係を捨てて団結を見せるようになる」 と説いたが、ミアシャイマーはこう反論する。
「野心的な覇権国が出てくると、それに対抗する目的で 『バランシング同盟』 が結成されるという主張が多い。 ところが歴史的に見れば、そのような同盟関係がタイミングよく効果的に形成されることはほとんどない。 脅威をうけた国々は危険な国に対して同盟を形成するよりも、むしろパックパッシング( 責任転嫁 )しあうことを好む」
 ( ミアシャイマー、奥山真司訳 『大国政治の悲劇』、五月書房 )

 積極的関与から封じ込めへ

 前述のアーロン・フリードバーグ教授は悲観的でさえある。
「もし現在のトレンドが継続すれば、アメリカは中国との地政学的競争に負けてしまうだろう。 敗北は一気に到来するのではなく、静かに訪れる可能性が高い。 中国指導部は対立を模索していないからだ。 反対に、冷戦終結以来、中国は自国のパワーと影響力を拡大させつつ、アメリカのパワーと影響力を弱体化させ、収縮させるために慎重な政策を執ってきた。 もし、中国による軍拡が進み、アメリカが財政的制約、国内政治の圧力、さらに誤った戦略的自制によって現状を越える積極的な対応をとらなければ、西太平洋における軍事バランスは急激に中国に傾き始める」
「中国のパワーが成長を続け、一党独裁によって統治されていくのであれば、アメリカとの関係は日増しに緊張し、競合的なものとなっていく。 これが現在進行している事態であり、好き嫌いにかかわらず、アメリカとその同盟国が選択の余地なく備えるべき未来なのだ」

 ( フリードバーグ、佐藤亮監訳 『支配への競争』、日本評論社 )
 かくして、米国は対中戦略を 「エンゲージメント」 ( 積極的関与 )から 「コンテインメント」 ( 封じ込め )へ転ずる過渡期にあり、経済では交流拡大するが軍事的には封じ込めるという 「コンゲージメント」 路線に修正しつつあると言える。
 一方、米国の動きに反発する習近平は14年5月に上海で開催された 「アジア相互信頼醸成措置会議」 ( CICA )で、 「アジアのことはアジアに任せよ」 と挑発的な演説をした。 言葉を換えて言えば、 「ヤンキー・ゴー・ホーム」 である。


 ロシアが疎外要因となる

 いま世界を見渡して、中国の味方は誰もいない。 中国は四面楚歌の状態である。 最後の友邦だった北朝鮮ともいまや犬猿の仲であり、中国に援助と引き替えに応援を送るのはラオスとカンボジアだけだ。
 かの華僑国家であるシンガポールも中国の軍事力に対応するため、米空母の寄港を認めている。 そればかりか、シンガポールは従来軽視してきた日本の首相を安保対話に主賓で招待し( 2014年5月の 「シャングリラ対話」 )、基調演説をさせるほどの変身を遂げた。
 中国の潜水艦が寄港するスリランカも、2015年1月の大統領選挙では親中派ラジャパスカ大統領が落選という、中国にとっての番狂わせが起きた。
 中国と蜜月を演出しているはずのロシアの様子もおかしくなった。
 そもそもロシアの中国との協調路線は政治的打算のもと、プーチンの演出にすぎないものではあった。 しかし、たとえば世界の基軸通貨は80~100年周期で起こるもので、米ドルの基軸通貨体制の嚆矢は1921年からで、プラウダ( ロシアの新聞 )が 「そろそろ時期的にも米ドル時代は終わり、次は人民元が世界通貨だ」 という中国の儚い夢の応援団を買って出たことにあったほどだ。
 ところで、BRICs銀行の最初のアイデアは2012年にブラジルで開催されたG20である。 ここで中国、ロシア、インド、ブラジルに南アが正式メンバーとして付け加えられた。 このときから、BRICsの最後の 「s」 が大文字の「S」となった。
 まだ正式に発足していないBRICs銀行について、ロシアは 「今後、IMFに代わり世界の基軸通貨を発行する銀行となる」 と突拍子もないことを言い出し、2月に批准を決議、3月にはプーチン大統領が署名を済ませ、BRICs銀行の最初の批准国となった。
 3月5日にはアルゼンチン、メキシコ、ナイジェリア、インドネシアなどが加盟を申請した。 資本金は1000億ドルに上積みされ、加盟国はさらに増大する展望が開けてきた。
 しかしなぜ、資本金がドル建てなのかの説明がない。 BRICs銀行が本当にIMF世界銀行という戦後世界の経済体制を支えるシステムを代替するとなると、先のAIIBと同様にいくつかの疑問が湧いてくる。 たとえば通貨危機を救援するインフラの改篇、ひいては国連の改組が必要となる。
 これらがそれほどの長期的展望を持つ銀行だとは考えにくい。 実際にロシアの金融専門家さえ、IMFの代替機構になりうるかには懐疑的で、 「相互の危機救済システムが謳われているわけでもなく、せいぜいがEBRD( 東欧復興開発銀行 )の代替であろう」 と見ている( 英文プラウダ、2015年3月12日 )。
 3月下旬、ロシア財務省は英独仏なども加盟するAIIBに疑問符を付けた。 なぜなら、ウクライナ問題でロシアを制裁中の西欧諸国が加入すれば、ロシアへの融資が審査段階で拒否されかねないからである。
 中国の思惑はブラジル、ロシア、南アなどのプロジェクトへ中国企業が入札し、そのファイナンスによる経済的影響力の浸透というものだ。 政治的意図が露骨であり、こうなると 「年末に最初の融資が行われ、5年以内に本格化する」 という展望さえ足下から怪しい。
 過剰投資による在庫が積み増しされ、太りすぎた設備投資の削減と企業合併による調整が必要とされる中国は余剰設備、在庫処理のためにもAIIBとBRICs銀行を武器にできる。 在庫セールと失業者の海外派遣がセットになっている。
 日本で 「乗り遅れた」 などとAIIBを脅威とする報道が強いが、それはあまりの過大評価である。 米国政治に吹き始めた反中国感情が、国際政治に今後いかなる影響をもたらすかは未知数、未来予測は困難ではあるのだが ……。