一人っ子政策



 国家人口・計画生育委員会はこのほど、全国の新生児の男女比率は116対100となっており、正常な範囲とされる103~107対100を大幅に上回っていることを明らかにした。 1970年代まで全国新生児の男女比率は正常であったが、1980年代からそのバランスは崩れて始め、現在では深刻な状態となっている。

 2000年に行なわれた第5回国勢調査では、新生児の男女比率は119.92対100であった。 省・市・自治区別で新生児男女比が110対100以下となっているのは内モンゴル自治区などの7省( 自治区 )のみ。

 専門家らは、男尊女卑などの考え方、農村部の生産力低下、社会保障制度の不備などが新生児性別バランスが崩れる原因とみている。 このため国家人口・計画生育委員会は2002年から、男女平等などを目的とする 「女児関愛行動」 を展開、未許可での胎児の性別診断などを禁じている。

 この数字は強烈だ。

【一人っ子政策で大切に過度に甘やかされて可愛がられて育った子供】
 原因は、中国の人口爆発とその対策である 「一人っ子政策」 にある。 農村部などでは男児の方が重宝されるため、必然的 に男女のバランスが崩れていってしまう。
 「必然的に」 とは、嫌な話しだけど、ニュース中にあるような 「胎児の性別診断」 と中絶。 あと、中世まがいの 「間引き」。 これが農村部などで横行している。
 中国の 「一人っ子政策」 による人口体系の歪みは凄まじい。 OECDのレポートによれば中国では出生率の劇的な低下が起きている。 北京では、出生率は女性1人当たり1.4~1.5に低下しており、上海では0.96にまで低下している。 それに伴い、人口の急速な高齢化が起き、中国人の平均年齢は、1995年には27歳だったのが、2025年には40歳になるという。

 この高齢化が 「男児待望」 を加速させている。 中国の唯一の社会保障システムは 「家族」。 しかし、一人っ子政策によって多産が禁止されている以上、より労働力として頼りになる男子を求めざるを得ない。

 また、花嫁不足も深刻。 これだけ男女の比率が開けば、結婚にあぶれる男性が続出してしまう。 その結果、女性や女児の人身売買事件が頻発 している。

 人口の抑制策としての一人っ子政策。 理念は間違ってないと思うけど、この歪みは中国社会に強烈なマイナスをもたらしている。

 一人っ子政策のもとで極端な産児制限を強いられ、もともと男児を尊ぶ風潮の中国の農村では女児は間引きされてしまうことが多い。 また、生まれた直後に売られる場合もある。 それによって男女比に偏りが生じ、中国では成人女性の人口が少ない。 よって、嫁の来手がなくなる農村部などでは女性の売買が横行する ことになる。

 この女性売買の問題は中国国内だけではなく、中国と国境を接した他の国にも及んでいる

 国連開発計画の最近の報告書によれば、貧しいベトナム人女性や未成年者が、世界各地で売春婦、奴隷、妻として売られている。 1990年代の初頭以来、少なくとも1万人の女性と1万4000人以上の子供が売られ、その人数も増加傾向にあるという。
 その中でも国境を接した中国に売られるケースが多く、その場合、ベトナム北部から中国南部の雲南や広西へのルートで売買される。 ベトナム人女性を斡旋したり、メールオーダーの花嫁紹介業者を通した、不正取引が行われている。 中国国境にあるランソン省の女性同盟によると1993年以来、3000人以上のベトナム人女性が、その境遇を脱して中国から戻ってきた。








 国連開発計画の最近の報告書によれば、貧しいベトナム人女性や未成年者が、世界中に売春婦、奴隷、妻として売られている。 1990年代初め以来、少なくとも1万人の女性、そして1万4000人以上の子供が売られ、その人数も増加傾向にある。 しかし、ベトナム女性同盟は、これほど多くの人数ではないと異論を唱えている。
 女性の大部分は、中国、カンボジア、台湾、香港、マカオ、オーストラリア、アメリカ合衆国、シンガポールへ送られ、花嫁、家政婦、売春婦、奴隷になっている。 子供たちの中で特に被害にあっているのは、長女あるいは次女で、容姿がよい少女たちである。 大部分の女性の年齢は、18歳から40歳で、未成年者の年齢は幼児から17歳までである。
 性風俗労働者に占める少女の比率は増加しつつあると信じられている( 1989年には2.5%、94年には11.0%、95年には11.4% )。 MoLISA とユニセフ( UNICEF )の推計によると近年、性風俗労働者の数は20万人に達しており、その7%から10.5%が10代の少女である。 またホーチミン市の女性同盟の報告によると、カンボジアの3万人の性風俗労働者の40%がベトナム人女性である。 ただし、カンボジアで人権委員会が22省、64地区を対象に行った調査では1万4725人の売春婦が確認され、2291人の少女売春婦の実に78%がベトナム人であった。 プノンペン郊外のある地区には、50の売春宿があるが、ここではほぼすべてがベトナム人女性であった。 中国への婦女子売買は、主にベトナム北部から行われ、カンボジアへはベトナム南部から行われていることが多い。
 中国国内では、嫁や家事手伝いへの需要が拡大しており、今ではベトナム人女性を斡旋したり、メールオーダーの花嫁紹介業者を通した不正取引が行われている。 中国国境にあるランソン省の女性同盟によると1993年以来、3000人以上の女性が、自分の陥った境遇がいかなるものか気づいたあとで中国から戻ってきた。 台湾・香港・マカオにも、中国人男性とベトナム人女性との結婚を斡旋する花嫁紹介業者がいる。
 婦女子が売買される場合に、彼女らや両親を説得する役割を果たす仲介役になっているのは通常、親類、友人、同郷の人々だが、時には見知らぬ人が女性や少女に、高い所得を得ることができる仕事があり、気楽な生活があなたを待っていると言ってみたり、男性が女性に対し恋愛感情を示し、母国で結婚すると口説いたりする。 仲介役の大部分は女性で、その多くが自身、婦女子売買の被害者である。
 勧誘された女性は、しばしば両親や家族に前もって支払われた金のために借金を背負う。 そして、海外への旅行費用が自分の借金の一部になることを知らないまま目的地に着き、多くが売春宿へ売られていく。




 広西チワン族自治区では、ベトナム人女性を売買し、妻にする男性が多いという。 ベトナム以外では、北朝鮮からの脱北者流入する中国東北三省。 ここでは北朝鮮人女性の売買が横行している。 さらにロシアやミャンマーなどでも、「いい仕事がある」 と連れ去り、中国で売買する事件が後をたたないとのこと。





( 2010.08.01 )
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 花嫁探し目的でベトナムを訪れる中国人男性の増加により、ベトナム国民に嫌中感情が広がっている。

 中国では人口における男女比の不均等により慢性的な嫁不足が続いている。 さらに、昨今は女性側が結婚の条件としてマイホームや自家用車などを要求するようになり、結婚できない男性が増える一方だという。 その解決策として 「おとなしく金のかからない」 ベトナム人女性と結婚する中国人男性が増えている。 今年42歳になる南京市の男性は、昨年9月にベトナムを旅行した際、現地人女性と結婚した。 花嫁を中国に連れて帰ったこの男性は、これまで他の数百人の中国人男性に、ベトナム女性との結婚を斡旋したという。

 しかしある日、その男性が率いるお見合い旅行グループが宿泊するホテルに連日多くの若い女性たちが出入りしていたことを怪しんだ地元警察が、売買春容疑でホテルに踏み込み中国人宿泊客全員を逮捕したという。 ベトナムでは、こうした中国人男性とベトナム人女性の結婚に関係するマイナス報道が連日流されており、両国の友好関係に大きな影響を与えている。 ある中国人旅行客がタクシーに乗ったとき、運転手は 「中国はなぜいつもベトナムを苦しめるんだ! 中国はベトナムから多くの物を奪った。 今度は女か」 と吐き捨てたという。




 無知と貧困と悪徳 … 常識が通用しない国が、隣に横たわっている。
 経済発展の裏では、世の悪徳を塗り固めたような人身売買が横行する国。
 一見、苛烈な一党独裁国家でありながら、こういう犯罪絡みでは政府の統制は驚くほど甘い。

 昔ながらの売買婚の風習。
 極端な男女の人口比。
 農村部の無知と貧困。
 革命による古来からの倫理の廃絶。
 マルクス主義譲りの唯物主義。
 そして金銭至上主義。
 …… ここらへんが人身売買の根本原因だ。

 こういう状況を改善できなければ、この国が人権など語る資格など無いし、また、他国を偉そうに指導する資格など無い。




   



   





( 1012.07.07 )

 

 英BBC中国語サイトによると、中国では厳しい計画出産( 一人っ子政策 )が国民に課せられているが、規制緩和を求める声が高まっている。 中国国内の法学者や人口学者などの専門家が連名で国会に建議書を提出し、国民の出産・育児の権利に対する規制を撤廃するよう 「人口・計画出産法」 の全面改正を求めている。
 建議書は北京大学の法学者・湛中楽ジャン・ジョンラー教授ら5人の専門家が発起人となり提出され、さらに10数人の専門家も建議書を支持して署名している。 建議書はすでに全国人民代表大会( 全人代 )常務委員会に送り届けられたという。

 2004年に中国政府が憲法を改正し 「国家は人権を尊重し保証する」 ということ明確にし、国民側も権利意識が高まったほか、中国の人口・経済社会を取り巻く環境にも大きな変化が生じていることから、 「人口・計画出産法」 を改正すべき時期に至っているとしている。

 中国では30年間以上にわたって一人っ子政策が続けられているが、先月陝西省で妊娠7ヵ月の女性が地元当局者に連行され、強制的に流産させられるという事件が起きたことが社会的に大きく取り上げられ、一人っ子政策の撤廃を求める気運を高めるきっかけとなった。

 また、この5人の専門家による建議書以外に、政府シンクタンクからも法改正を求める声が出ている。 中国国務院発展研究センターの研究員3人は3日、中国経済時報に寄稿し、計画出産政策は早急に改正し、2人目の子どもも産めるようにすべきだとしている。





( 2013.02.19 )

  


 経済成長を続ける中国では、1年間になんと10万人もの子どもたちが親から捨てられている実態があります。

 広東省広州市にある児童養護施設。 この施設は親から捨てられた子どもが対象で、およそ800人が生活しています。 こうした子どもの数は年間およそ10万人。 およそ250人の日本と比べると、400倍に上ります。 なぜ、中国ではこんなにも多くの子どもが捨てられるのでしょうか? 養護施設の副院長に聞くと ……
「この子は健康なのですが、手がありません。 だからここに預けられたのです」 ( 広州市社会児童福利院 黄方副院長 )
 施設によりますと、ここに住む子どもほぼ全員に何らかの障害があるといいます。 中国では一人っ子政策が実施されているため、一つの家庭に1人の子どもを育てることができるわけですが、経済力のないことや子どもに障害があること自体を理由に子どもを捨てていく親が少なくないのだといいます。 中国の家庭で今、何が起きているのでしょうか?
「障害のある子どもが生まれると経済的に大変ですし、精神的負担も大きい。 家庭によっては、子どもを捨てるのは仕方がないことなのです」 ( 広州市社会児童福利院 黄方副院長 )
 障害や人権に対する意識の違いでしょうか。 ただ、広州市のこの施設では障害のある子どもたちがリハビリするための設備を充実させています。 もし、将来、自立するのが難しければ、成人してから60歳まで生活し続けることも可能です。

 しかし、ここよりも貧しい地域では、公的なセーフティーネットからこぼれ落ちる子どもたちもいました。 年明け早々の1月4日、中国・河南省の家で火事が起きました。 今もまだ、そのときの焦げた跡が一部に残っています。 この火事でこの家に住んでいた子ども7人が死亡しました。 ここは親から捨てられた子を預かる施設でした。 1人の女性がボランティアでこれまでに100人以上を育ててきたといいます。 死亡したのは生後7か月~20歳までの7人。 この施設の子どもたちにも全員に障害がありました。 火事の原因は子どもの火遊びだったといいます。

 中国政府は、0~14歳の障害のある児童の数は2012年の時点でおよそ1000万人とみています。 ですが、地方では公的な児童養護施設の整備がまだまだ進んでいないというのが現実です。 経済の発展とともに、中国がこうした実態や障害のある人に対する意識をどう高めるか …… 中国が抱える影の中に、今も早急な対応を必要としている人たちがいます。





( 2012.09.09 )

 


上海市内の公園で肩を寄せ合うカップル。
結婚適齢期の男女比率が崩れた中国では晩婚化が進んでいる
 急速に高齢化が進む中国で、お年寄りの孤独死が社会問題化している。 60歳以上の人口は1億8千万人を超え、日本の総人口をすでに上回った。 親と離れて暮らす子供に、定期的な帰省を義務づける法律の制定を検討するなど、中国政府は対策に乗り出しているが、 「特効薬」 は見つかりそうにない。 しかも、一人っ子政策で過度にかわいがられて育った若者ら男女の構成比が崩れ、結婚難に陥り、将来を不安がる親に結婚相手として架空の恋人を紹介する始末 ……。 アジア各国でいち早く少子高齢化が進む日本。 中国の現状をどう見る?



 中国で高齢化が急速に進む背景の一つとして指摘されている一人っ子政策は1979年に導入された。 50~70年代までの間に起こったベビーブームで増加の一途をたどる人口を抑制するための政策で、中国政府はこれまでに約4億人の人口を抑制したとしている。

 しかし、この政策のため、人口構成ではベビーブーム世代が膨張する一方、それより若い世代が急激に減少している。 一人っ子政策の親世代が60歳を超える今後は、高齢化が一気に進むことになる。

 高齢化の進行とともに、経済や社会状況の変化もあり、子供が独立した後、独居または老夫婦だけで暮らす 「空巣」 と呼ばれる世帯が急増。 高齢者の孤独死なども増えており、特に、上海や北京などの都市部で深刻な問題となっている。

 「親の老後は子がみるのが当然」 という考えが根強い中国だが、最近では 「子供が顔を見せない」 「面倒をみてくれない」 などと裁判所に訴えるケースも少なくないという。

 こうした状況を受けて、全国人民代表大会( 全人代=国会 )の常務委員会は、年老いた親と離れて暮らす子供に定期的に帰省するよう義務づける法律の制定も検討。 しかし、子供の世代からは 「子供の面倒で精一杯なのに」 などとする声も出ている。




 一人っ子政策は高齢化の進行に拍車をかける一方、結婚難の要因ともなっている。 中国では男の跡継ぎを欲しがる発想が強く、1人しか認められないから、女の子だと分かると堕胎しているという。 その結果、男女の構成比が崩れた。 結婚適齢期の女性100とすると、男性は110前後。 結婚できない男性が増えるとみられている。

 しかし、親からは 「結婚はまだか」 と催促される。 こうした圧力をかわすため、帰省などに際して 「恋人役」 を貸し出すインターネット通販サイトまで登場しているという。

 一人っ子政策の影響はまだある。

 北京や西安、広州などの都市部で墓地の価格上昇が急激に進み、住宅価格の上昇率を上回る現象が起こっているのだ。高齢者の増加で墓地の需要が増えると見込んで投機マネーが流れ込んだためだが、価格高騰が続けば、一人っ子政策の世代は墓が購入できない。 先祖を弔う文化がなくなることを危惧する声も出ている。




 世界人口が昨年、70億人を突破した際、中国当局は 「もし計画出産を実施していなければ、現在の中国の人口は17億人を超え、経済社会の発展は困難になった」 として、今後も政策を続けていく方針を明らかにしている。

 だが、一人っ子政策は中国社会に根深い問題を生み続けている。 例えば、当局の一人っ子政策担当者が2人目を妊娠した女性を強制的に堕胎させるなどの問題が相次いでいるほか、戸籍がない子供や捨て子の増加、人身売買 ……。

 また、両親や双方の祖父母にかわいがられて育てられる一人っ子は、 「小皇帝」 と呼ばれ、弱々しい子供が多くなったとも指摘される。 こうした一人っ子同士が結婚、双方の父母の介護などを行うことになるが、子供にかかる負担が増え、家族介護も限界に達するとみられている。

 中国は世界第2位の経済大国だが、国民一人あたりのGDPが5千ドル台。 国民全体が豊かさを実感する前に高齢化社会を迎え、年金や医療などの社会保障に国力を注ぐ必要が高まるとみられている。





( 2013.02.28 )

   

 大事に育てた一人っ子に先立たれた家庭( 中国語で 「失独家庭」 )が増え続けており、近い将来に1000万世帯を超える見通しだという。 夫婦のほとんどは50歳を超えており、失意の中で過ごすという精神面の問題だけでなく、これらの老齢家族の面倒を今後、誰が見るかという新たな問題が浮上している。

 中国が一人っ子政策に踏み切ったのは1979年だった。 前年末に天津のある女性労働者( 女児1人を持つ )が 「もう男の子は欲しがりません」 と宣言。 これをきっかけに一人っ子政策が国策となり、1980年には 「晩婚」 「晩生」 などを盛り込んだ婚姻法も成立している。

 それから30年余り、多少の緩和策は取られたものの、都市部ではいまだに厳しい一人っ子政策が継続されている。 総人口を抑制するにはやむを得ない政策ではあったが、半面でいくつかの重要な問題も引き起こしてきた。

 最大の問題は中絶の増加などにより、男女比が極端にアンバランスになってしまったことだ。 そのほか、戸籍のない子供が多く生まれたり、一人っ子を甘やかした結果、社会常識の欠落した協調性のない人間が増えたりするなどの問題点も指摘されている。

 そこへ新たに一人っ子に先立たれた家庭の問題が登場してきた。 当局によると、こうした家庭は毎年7万6000世帯ずつ増え続けており、近い将来には1000万を超えるという。 夫婦ともに健在ならば、一人っ子に先立たれた人は2000万人以上になる。

 2人目の子供が欲しくても我慢し、政府の政策を順守してきたにもかかわらず、その大切な一人っ子を失ってしまう。 そうした家庭がどのような状況にあるか、調査も行われているが、悲惨そのものだ。

 ある家庭は米国留学に出した一人っ子が交通事故で亡くなってしまった。 最も精神的に苦痛なのは旧正月の時期だという。 隣近所は里帰りする子供のために、買い出しなどの準備に忙しい。 しかし自分たちは、家の中でじっとしているしかない。

 もっと高齢化した場合には、面倒を見てくれる子供がいないという状況になる。 政府もこの問題を重視し、対策の検討に入ったことを明らかにしている。

 だが政府はいまだに一人っ子政策の撤回をためらっている。 少子高齢化は進んでいるのだが、なお人口総数の増加を懸念しているからだ。 「失独家庭」 が増えるにつれ一人っ子政策撤回の声が一段と強まっていこう。





 





( 2014.11.05 )
中国で死体盗掘と密売が横行
  「陰婚」 と呼ばれる習慣のため


 

 * * *

 一人の若き青年が不慮の事故で命を絶たれた ――。 中国では若くして他界した家族や親せきの亡骸を前に、嘆き悲しむ両親や兄弟たちの裏側で、葬式とは別にとり行われる 「ある儀式」 のために慌ただしく走り回る親戚や親族の姿が見られることがある。

 いったい彼らは何のために奔走しているのか。 答えは、 「結婚」 だ。

 結婚と聞いて驚かない日本人がいるだろうか。 なぜなら結婚するのは死んだばかりの若者であるからだ。 もちろん、死んだばかりの若者に生前からの許嫁がいたわけではない。 付き合っていた相手がいたわけでもないのである。

 仮にもし、死者に許嫁や交際中の相手がいたとしても、この結婚においては、そのことはまったく意味を持たない。 なぜなら彼や彼女らが結婚する相手は、やはり若い死体だからだ。

 中国では一般に、こうした死者と死者の間でとり行われる結婚を 「陰婚」 と呼んでいるが、その呼称は 「冥婚」 や 「鬼婚」、そして時には 「冥配」 と呼ばれるなど地方によって実にまちまちである。

 「この風習は宗教というより何千年も続いている中国の土着の習慣なのです。 もちろん農村で多いのですが、決して都会に無い問題ではありません。 例えば、中国一の金持ちが集まる土地の一つである広東省などでは、 『陰婚』 の風習は根強く残っています。 ですから彼らは、都会で死んだ死体をできるだけ人目のつかない田舎に移しているのです。

 中国で 『陰婚』 がこれほどなくならないのは、祖先の中に “孤独な墓( 弧墳 )” があると、子孫の発展、繁栄の妨げになると信じているからです。 ですから、未婚の死体には生きている人々が勝手に結婚の相手を探してきて結婚させてしまうのです。 そのための死体ですから、相手は誰でもよいのです」 ( 北京の夕刊紙記者 )

 こうして出来上がった 「陰婚」 後に異性の二つの死体を “合葬” することによって、やっと若き死者も成仏でき、一族の子孫の繁栄にも支障は取り除かれる。 そして親戚一同みなホッと胸を撫で下ろすというのである。 ちょっと信じ難い儀式であり、感覚だが、中国では大真面目にやられている。

 だが、ここでふと疑問になるのは、それほど簡単に結婚相手の死体が見つかるのか、という問題だろう。 実は、そこには産業が存在していると語るのは、前出の夕刊紙記者である。
「つまり人に知られないように墓を掘り返して死体を盗み、それを地下のマーケットで売りさばくという組織の存在です。 彼らは、マフィアというより情報に精通している組織です。 やはり市場で最も高い値が付くのが若い女性だとされています。 ですからどこそこの村で若い女性が死んだという情報をいち早く得て、それを掘り返しに行くのです。 このとき、掘り返したことを遺族に気付かれたら大変なことになります。 ですから遺族に悟られずに死体を持ち出すことも重要で、犯罪グループはそうした技術にも長けていると考えられています」
 新華ネットが配信( 2014-10-30 )した記事によれば、今年6月、河北省巨野県の城北派出所の警官が、電気自動車を専門に盗む自動車窃盗グループを摘発した際、その犯罪グループの構成員の1人が、彼らがこのほかに死体の盗掘と密売に関与していることを自白したという。

 メンバーの王によると、死体盗掘・密売犯罪グループは全部で8人で、直近の犯行では3月に同県田橋鎮で死後わずか3ヵ月の女性の死体を掘り出して売ったのだという。 支隊を売った値段は1万8千元( 約30万6千円 )だったという。 また王は、山東省のテレビ局のインタビューを受けて以下のようにも答えている。
「骨がむき出しになってしまったような古い死体は、ほとんど値段がつかないが死んだばかりの死体には1万6~7千元から2万元で売り飛ばすことができる」
 王たちのグループが盗んだ死体は、その後の追跡調査によりいくつかの町を経て邯鄲市の犯罪グループの劉という人物の手に渡ったことが判明した。 劉の供述によると、死体は同市のちいさな医院の遺体安置所に置かれていて、その間に死体の買い手を探したというのだが、死体の買い手が見つかるまでにわずか1週間しかかからなかったというから、中国社会における需要の大きさがうかがい知れる。

 ちなみに最終的に同省武安市の買い手に引き渡された死体は、3万8千元の値で取引されたという。





( 2016.08.26 )


 中国・陝西省の警察はこのほど、知的障害のある女性2人を殺害したとして男を逮捕した。 いわゆる 「冥婚」 用に遺体を売るのが目的だったという。

 「幽婚」 や 「鬼婚」 とも呼ばれるこの古い風習は、未婚で死んだ人のために死後の世界での伴侶を与えるものだ。 いまだに中国の一部で行われているこの幽玄な儀式が、むごたらしい殺人事件によってあらためて脚光を浴びている。

 陝西省の警察の調べによると、事件の発覚は今年4月。 交通警察が女性の死体を乗せた自動車を発見し、男3人を拘束したことから始まった。

 捜査を進めるうちに、次第に凄惨なことの次第が明らかになっていった。 男の名前は 「マ」 としか発表されていないが、容疑者は結婚相手を紹介すると女性たちに近づき、代わりに遺体を売却する目的で女性たちを殺害したというのだ。


「冥婚」とは? 

 約3000年前から続くこの風習を信じる人たちは、これによって未婚の人たちは死後の世界を独りで過ごさずに済むのだと言う。

 そもそもの 「冥婚」 は、あくまでも死んだ者同士を結びつけるものだった。 未婚の死者2人を、生きている人間が結婚させる儀式だった。 しかし近年では、生きた人間を死体と結婚させるケースもある。

 死者同士の 「冥婚」 では、 「花嫁」 の家族は相手に結納金を求める。 紙で作った宝石や召使いや屋敷などだ。

 伝統的な結婚と同じように、お互いの年齢や家族の釣り合いが非常に重視されるため、どちらの家族も風水師を雇い、しかるべき相手を探す。

 結婚式では通常、新郎新婦の遺影が掲げられ、参列者が会食する。 花嫁の遺骨を掘り出して、花婿の棺に納めるのが何より大事なハイライトだ。


伝統の暗部は? 

 中国の一部では数年前から、この儀式が変質して形を変えている様子だ。 秘密の儀式で生きている人間が遺体と 「結婚」 する事例のほか、墓から遺骨を盗みだす、深刻な事例の報告が相次ぎ、殺人さえ絡み始めた。

 2015年には山西省の村で女性14人の遺骨が盗まれた。 村の住民たちは、墓盗人たちが金目当てで盗んだのだと話した。

 2008年~2010年にかけて山西省の冥婚を実地調査した上海大学の黄景春教授は、若い女性の遺体や遺骨の値段が急騰しつつあると話す。

 黄博士の調査当時、若い女性の遺体・遺骨には3万~5万人民元( 約15万~75万円 )の値がついた。 今なら10万人民元にはなるだろうと言う。 遺体の売買は2006年に禁止されたが、墓の盗掘は後を絶たない。

 内モンゴル自治区涼城県で昨年逮捕された男は、冥婚の花嫁を探している家族に遺体を売って金儲けしようと、女性を殺害したと警察に供述している。


なぜ起きているのか

 理由は場所によって異なる。 山西省など中国の一部の地域では、大勢の若い未婚男性が石炭の鉱山で働いている。 死亡事故は頻繁に起きる。

 若者の死を嘆く遺族にとって、冥婚は気持ちを癒す手がかりとなる。 家族の生計を支えるために働き、その仕事中に死んだ若い息子のために花嫁を探すというのも、遺族の心をなだめる手法のひとつだ。

 しかし男女の人数の違いによる影響も大きい。 2014年国勢調査によると、この年に生まれた新生児の内、女児100人に対して男児は115.9人だった。

 一方で黄博士は、さらに根本的な文化的な要因もあると指摘する。

 中国人の多くは、死者の願いをかなえないとバチがあたると信じている。 冥婚は、死者を鎮める方法なのだ。

 「死者は死後の世界で生き続けるという考え方が、冥婚の背景にある。 なので生きている間に結婚しなかったとしても、死後に結婚する必要があるわけだ」 と黄博士。


中国以外でもあるのか

 冥婚のほとんどは、山西省や陝西省、河南省など、中国の北部や中央部で行われる。 しかし香港の風水師、司徒法正氏は、東南アジア各地の中国人社会でもこの古代の風習はまだ続いていると話す。

 台湾では、未婚の女性が亡くなると、遺族が現金や紙銭、髪の一束、爪などを入れた赤い包みを表に出して、男性が拾ってくれるのを待つという風習がある。 最初に拾った男性が花婿として選ばれ、亡くなった花嫁との結婚を断るのは不吉なこととされる。

 結婚の儀式は中国本土と似ているが、本土と異なり、遺骨を掘り起こしたりはしない。 花婿は、生きている女性との結婚も許されるが、冥婚でめとった妻を正妻として尊重しなくてはならない。

 台湾・台中市の男性が、亡くなった恋人と大掛かりな式典で 「結婚」 するビデオが、昨年話題となった。

 こうした儀式の根幹にあるのは、死や喪失とどう向き合えばいいのかという、人間にとって普遍的なジレンマだ。

 「そういう冥婚はとても感動的です。 愛は永遠だと教えてくれます」 と司徒氏は話した。





( 2015.10.24 )

  


中国では一人っ子政策の影響で男女比が不均衡となり、2020年には
男性の人口が女性より3000万人も多くなるとの見方がある。
 中国では一人っ子政策の影響で男女比が不均衡となり、2020年には男性の人口が女性より3000万人も多くなるとの見方がある。 こうした現状に浙江財経学院の謝作詩シエ・ズオシー教授は、 「低所得層の男性は複数で1人の女性と結婚するといい」 と自身の見解を語った。

 3000万人の男余りの現状は短期的に改善できる現象ではない。 この不均衡を正すには、何かしらの方法で調整する必要がある。 経済力があるといった好条件の男性は優先的にパートナーを見つけられるが、低所得層はどうだろうか? 複数の男性が1人の女性と結婚する一妻多夫や同性婚を認めるのも手段の1つと言える。 経済発展も男余りの問題を解決する手段。 経済が発展し、裕福な男性が増えれば国際結婚の増加が期待できるからだ。

 一方で、男女比は不均衡だが、性における需要と供給のバランスが崩れることはない。 男余りの増加により女性の希少性は上がり、性のサービスの価格は上がるが、供給自体が減ることはない。 ただ、こうした性のサービスを合法化しないと、多くの人が違法行為に走るだろう。








清代の中国人
 一人っ子政策を長らく実施している中国では人口における男女比が不均衡な状態にあり、結婚相手を見つけられずに男性が余る困った現象が起きている。 しかし、こうした状況は中国の歴史上、初めてのことでないという。

 30年以上にわたって産児制限が実施される中、伝統的に男児を重んじる中国では 「たった1人しか子供が生めないのなら男児がほしい」 と願う家庭が多かった。 そこで現在の不自然な男女比が形成されてしまったわけだが、こうした “男余り” の現象は2030~2050年まで続くとみられており、結婚できない男性が社会問題化している。

 同じ状況はなんと、清代( 18~19世紀 )の中国各地でも見られたらしい。 この時代は女児が軽視されていたため、生まれてすぐに殺されてしまうケースが後を絶たなかった。 また、富裕層は何人もの妾を持つことがよしとされた時代。 一部の男性に女性が独占される形で、深刻な男余りに陥っていたという。

 こうした中、農村部を中心に、1人の女性が複数の男性を夫にする現象がきわめて普遍的になったという。 スタンフォード大学歴史学部のマシュー・ソマー准教授によると、こうした婚姻形態は、家庭を守るための致し方ない生存策だったという。 1700~1850年の150年間で中国の人口は倍増した。 また、農作地も2倍に拡大した。 つまり、確保すべき食糧や必要な労働力が倍増したということである。

 こうした環境で一夫一婦制がかたくなに守られていたとしたら、夫婦のどちらかが病に倒れたり、災害が発生したりした場合には、一家の生計が成り立たなくなる。 しかし、一家に複数の “主人” がいたらどうなるか? これはいわば保険のようなもので、男性の働き手の1人が何らかの原因で欠けてしまったとしても、一家が路頭に迷うとうことはなくなるわけだ。 経済的にも潤い、家庭生活の安定も保証する 「一妻多夫制」 は非常に合理的な策だったのだ。






 



ミャンマー東北部シャン州で政府軍と地元武装勢力との衝突が発生し、
中国側に逃げ込んできた大勢の難民。
 女性は中国と国境を接するミャンマー北部カチン州の貧しい農家の出身。 幼い頃から畑仕事が優先だったため、21歳でようやく高校に入学した。 だが、あと1年で卒業という時になり、学費が底を尽きそうになった。 そこで、従姉の勧めに従い、中国の雲南省でアルバイトをすることにした。

 ところが、実際は農家の38歳になる息子の嫁として2万元( 約24万円 )で売られていた。 「最初の頃は夜も眠れず、泣いてばかりいました。 中国語も分からないし、家族のもとに帰ることばかり考えていました」 と振り返る。 女性の妹も騙されて中国人男性の嫁として売られたが、上手く逃げ出し、今は故郷に帰っている。

 このように東南アジアから数多くの若い女性が騙されて中国の農村部に連れてこられ、中年の独身男性の 「花嫁」 となっている。 その背景にあるのが深刻な 「男余り」 だ。 中国では一人っ子政策が始まると、女性の数が減少した。 現在の男女比は120:100。 このままでは2020年には2400万人の男性が結婚できなくなる。

 





( 2015.10.30 )

     


 中国国営新華社通信によると、中国共産党は29日、1979年以来続いた一人っ子政策を終わらせると発表した。 全ての夫婦が2人目の子供を持つことを認める方針という。 少子高齢化対策への懸念から、政策転換への圧力が高まっていた。
 人口抑制のために導入された一人っ子政策で、4億人の誕生が抑制されたと推測されている。 政策に違反したカップルには、罰金から失職、人工中絶の強制に至るまで様々な罰則が加えられてきた。
 その一方で、政策遂行の社会的コストや労働者人口の減少などから、政策継続に警鐘を鳴らす専門家が増えたため、地域によって例外を認めるところも増えていた。
 中国共産党は2年ほど前から徐々に政策を緩和し始め、夫妻の少なくとも片方が一人っ子の場合は2人目の子供を持つことを容認するようになっていた。
 新華社が伝えた共産党中央委員会の声明では、子供を2人持つことを認める決定は 「均衡のとれた人口の発展を改善し」、高齢化に対応するためと説明している。
 現在の中国人口は13億6000万人で、そのうち約3割が50歳超。

 現地の特派員たちは、政策が緩和されても、中国社会では一人っ子家庭が当たり前のものとされてきたため、今後も2人目を作らないというカップルが多いのではないかとみている。
 BBCのジョン・サドワース記者は、仮に 「二人っ子政策」 を導入したとしても出生率は十分に上がらないだろうし、子供が3人以上欲しい女性にとっては、女性の出産の是非は政府が決めることという政府の主張が変わったわけではないと指摘する。
 人権団体 「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」 のマヤ・ワンさんはAFP通信に対し、 「人数の割り当てや監視の仕組みが続く限り、女性は出産の権利を保障されていることにならない」 と述べた。

 英オックスフォード大学のスチュアート・ギーテル=バステン助教授( 社会政策 )は同大の論壇サイト 「The Conversation」 で、一人っ子政策を改革しても中国の人口に大きな変化はないが、むしろ 「理屈に合わない不人気な政策に対する現実的な対応」 だと書いている。





( 2017.01.29 )

 

 一人っ子政策を撤廃した中国で、子宮内避妊用具( IUD )の 「無料取り外し」 をアピールする政府に対して女性から不満が噴出している。 かつて半ば強制的に装着をすすめたことにおわびもなく、政策転換をはかっているからだ。 除去には手術が必要で激しい痛みが伴うこともあり、 「人の体を傷つけておいて今度は修繕か」 などと怒りの声が出ている。


摘出には手術が必要

 中国は人口増加を抑えるために1980年代から一人っ子政策を続け、政府統制のもと厳しい産児制限を行ってきた。 人口抑制を確実にする手段として利用されたのが、第一子を出産した女性に対するIUDの装着だ。

 中国紙が報じる政府統計によると、2006年までに、避妊女性のほぼ半数に当たる1億1400万人がIUDを装着したという。 中央政府からの評価を高めようとして、地方政府は数字を競い合ったとも指摘されている。

 一人っ子政策の徹底をはかるため、一度装着すると健康問題以外では基本的に取り外すことは想定されていなかった。 このため他の国々のIUDと違って中国のそれは摘出しにくく、その場合も普通は手術が必要だという。


「無料」 をアピールするも

 しかし、政府が政策を180度転換したことで、一世代にわたる慣行が障害となって立ちはだかった。

 中国は昨年1月、少子化の進展に伴う人口減への懸念からすべての夫婦に二人目の子供を持つことを許可したが、多くの女性は一人っ子政策下でIUDを装着したままだ。 このため担当部局はIUDを装着して第二子を望む女性に対し、無料で取り外しを行うとアピールし始めたのだ。

 無料とはいえ、子供が欲しい女性は手術を受けることになる。 「新たな政策により、子供を望む多くの女性がふたたび痛みを伴うプロセスを耐えることになる」。 中国共産党機関紙、人民日報系で政府の意向を代弁することが多い環球時報さえ、同情的に報じた。

 欧米メディアは女性たちの怒りの声を伝えている。

 米紙ニューヨーク・タイムズに36歳の女性は 「そもそもこんなものすべきではなかった。 政府は今度はまるで国による保障だと言わんばかりだ」 と怒りをぶちまけた。 女性は2012年に一人目の子供を出産後に担当職員が自宅に来てIUD装着が必要と告げられ、不本意ながら応じたという。

 同紙は、政府が謝罪の気配すらみせなかったことが女性たちの憤慨を巻き起こしたと指摘している。


心身に害も

 米政府系放送局ラジオ自由アジアに対し、米国に拠点を置く中国の女性団体の代表者は 「全く恥知らず。 女性に対する扱いが人間以下のようだ」 と、中国政府を厳しく批判した。

 IUDについては、長年にわたる装着で多くの女性が心身を害されているとの報告もある。 装着したものの出産年齢を超えた女性については、無料取り外しの対象ともされていない。

 環球時報によると、25年にわたって装着していた67歳の女性は子宮に深く食い込んでいたため、取り外しでは激しい痛みと大量の出血を伴ったという。

 63歳の女性はニューヨーヨーク・タイムズ紙に、装着によって将来起こりうる問題について何ら聞かされなかったという。 この女性は 「政府の目からすれば女性は出産要員。 子供が必要なときは必要だが、不要なときはいらないんです」 と辛辣しんらつにコメントした。





( 2015.11.04 )



 「一人っ子政策を廃止したことについてどう思うか、ですって? う~ん。 そんなこと、私たちには関係ないんですけど。 もともと、子どもなんてあまり欲しくなかったし ……」

 10月末、中国政府は1979年末から36年間続けてきた 「一人っ子政策」 を廃止し、すべての夫婦が2人の子どもを持てるようにするという大きな政策転換を発表した。 この件で、2年前に結婚した上海在住の29歳の女性の顔が思い浮かび、すぐにメールしてみたのだが、やはり …… というべきか、つれない返事しか返ってこなかった。




 私はこれまで中国の 「個人」 に的を絞り、彼らの生活や仕事、人生観などについてインタビューを行い、 「結婚」 や 「子育て」 についても興味を持って話を聞いてきた。

 以前取材した北京の外資系企業で働く夫婦共働きの女性( 31歳 )は出産について、こう語っていた。

 「もし子どもを産めば、それだけ仕事のキャリアが遅れてしまう。 子育ては両親にかなり任せられるとしても、北京でレベルの高い私立の幼稚園に入れようとしたら、年間10万元( 約190万円 )近くはかかるでしょう。 もし産むのなら、一流の大学に進学させたいし。 でも、正直いって、子どもを産んでもっと忙しくなるよりも、夫婦でゆとりのある暮らしをしたいわ」

 また、上海に住む弁護士の男性( 33歳 )も 「結婚と同時にマンションを買いましたので、そのローンが大変で、子どもどころではありません。 親孝行のために1人は産もうかと夫婦で話し合っていますが、2人なんて、上海ではとんでもない話です」 と顔をしかめていた。

 中国の代表的なSNS、 「微信」 ( 中国版LINE )上でも、今回の政策廃止について否定的な意見が飛び交った。

 「私たちは牛や馬ではない。 これまで政府の勝手な都合で子どもは1人だけにしろといってきて、自分にも、友だちにも兄弟はいなくてさみしかった。 でも、人口が減ったからって、急に2人産めといわれても、そんなことできるわけない」 や 「政府が育児にかかる費用を全部出してくれるなら、2人産んであげてもいいけどね」 という皮肉を込めたコメントや冷めた意見が相次いだ。

 それもそのはずだ。 日本でも知られているように、中国では結婚すると男性側が家を購入する慣習があるが、北京や上海などの都市部では住宅が高騰し、かなり郊外であっても価格は日本円にして5000万円以上はザラ。 その重いローンに加え、子どもを大学まで進学させる教育費を考えると、相当な高給取りでもないかぎり、2人育てることは現実的に難しい。 経済的な負担が大きすぎるからだ。

 政府は2013年に 「夫婦どちらかが一人っ子ならば2人目を認める」 という緩和策を打ち出したが、この制度の利用者は低迷し、たいした効果は得られなかった。 危機感を感じた政府は、ついに大英断に踏み切ったわけだが、その背景には深刻な人口減と少子高齢化問題がある。




 中国の人口は約13億7000万人。 一人っ子政策の結果、1987年をピークに新生児の出生数は落ち始めた。 2012年の統計では全国の出生率は1.18と、日本の1.39をも下回る結果となった。 平均寿命が延びたため、人口に占める高齢人口も2011年に9.1%となった。

 中国はこれまで生産年齢人口( 15~59歳 )が多い 「人口ボーナス」 の時代が続き、豊富な労働力を活用して 「世界の工場」 と呼ばれるまでになった。 しかし、2012年に初めて減少に転じ、2014年末までに約9億人となった。 経済成長を押し下げる 「人口オーナス( 重荷 )」 の時代へと突入してしまったのだ。 このまま行けば、人口は2020年にピークに達したあと、年間790万人のペースで下降していく見込みで、労働力不足、人件費の高騰、消費市場の低迷という “暗い未来” が見えてきた。

 同政策はもともと爆発的な人口増加を抑えるために始まったものだ。 全国津々浦々で計画出産が奨励され、街中に 「計画生育」 「一人っ子をよりよく育てよう」 というスローガンがあふれ、これを守れない者は巨額の罰金を科せられたり、農村部などでは、無理やり人口中絶をさせられたりしてきた歴史がある。

 中国には 「後継ぎがいないことがいちばんの親不孝」 という儒教の伝統に則ったことわざがあるが、1980~90年代、農村部などでは、最初の子どもが女の子だった場合、政府に見つからないように、こっそり2人目を産むケースもあった。 2人目の子ども( あるいは女の子 )は戸籍に入れず隠して育てる 「黒孩子」 ( 闇の子 )と呼ばれて社会問題となり、そうした子どもは全土に1000万人以上もいるといわれている。

 これほど痛みを伴ってまで実施してきた人口抑制策だが、これを転換した結果、前述したように都市部の市民の間では否定的な意見が多かった。 中国メディアなどでも 「すでに遅きに失した政策」 「もはや人口増は無理」 という意見が散見されている。

 日本も1995年に生産年齢人口がピークアウトしたあと、人口オーナスの時代に入り、2008年ごろから人口が減少した。 ひとたび人口オーナスに転じれば、政府がどんな対策を講じても、再び人口を増やすことはそう簡単なことではない。 フランスなど出生率が再びアップした国もあるが、よほど効果的な奨励策を打ち出さないかぎり難しい。

 中国では多くの夫婦が共働きで、育児施設は日本より充実しており、祖父母が子育てを手伝うなどの相互扶助もよく行われている。 しかし、教育費は年々増大しており、政策を変えたからといって、 「人口増」 に結びつくモチベーションは少ない。

 それは、出産・育児が、個人の生活や生き方、人生に直結するプライベートな問題であるからだ。

 一人っ子政策を実施し始めた1980年代は 「全体主義」 の下で政府が人民の生活に深く関与し、コントロールすることができた。 「右向け右」 に従わないことなど、考えられない社会だった。 だが、この36年の間に中国社会は大きく変容してしまった。 「子どもは宝」 「後継ぎが何より大事」 だという伝統的な概念を持つ人は徐々に少なくなり、経済成長とともに、生き方が多様化し、個人のライフスタイルが優先されるようになったのだ。




 2人目の子どもに関しては、前述したような経済的な事情が大きいが、2人目を産むどころか、子どもは1人も要らない、夫婦2人だけで自由に暮らしたいという 「DINKS」 を選択する人や、そもそも結婚自体を望まない人も増えてきた。 私が取材した上海の男性( 30歳 )も、 「結婚にはまったく興味がない。 ずっと自分の好きなことをして暮らしたい。 好きな女性とは好きなときに一緒にいればいい」 と話していたが、このような個人主義の考え方の人も増えてきているのだ。 ある面では、日本に近づいているのである。

 現在の一人っ子の最高年齢は35歳。 「小皇帝」 と呼ばれた最初の世代で、20~35歳までの 「800后、90后( 80年代生まれ、90年代生まれ )」 は、約4億人いるといわれている。 両親から大事に育てられてきた、いわば中国の “新人類” だ。

 一般的にこの世代は中国で 「自己主張が強く」 「自分の才能と個性を重視し」 「生まれたときから何でも持っていて」 「ネットを通じて世界中の情報に精通しており」 「わがままで自己主張が強い」 と形容されてきた。 もちろん、すべての人がこのようなタイプであるはずはないが、少なくとも、それまでの世代に比べて豊かに育てられてきた彼らが、政府の “大本営発表” に素直に従うとは思えない。

 むろん、内陸部や農村では今回の政策転換を喜んでいる人もいないことはない。 「子ども1人だと私たちの老後が心配だから」 といって、これを機に2人目が欲しいという人だっているだろう。 しかし、この36年間で社会がここまで変化してしまうとは、政府も予測できなかったに違いない。

 中国の人口減少は、ただの国内問題だけでなく、世界経済にも多大な影響を与える重大な問題だ。 だが、その未来を担っているのは、ライフスタイルが大きく変わったこの4億人の若者の肩にかかっている。





( 2017.06.12 )



お見合い広場に群がる親たち

 「な、何なんだろう? これは …… いったい、この人だかりは?」

 5月中旬、北京の有名な観光地、故宮博物院を見物した後、隣接する中山公園から出口に向かって歩き出したときのことだ。

 日曜日の夕方とはいえ、公園の一角にものすごい数の人が群がっている。 故宮を見物した団体客はこの道は通らないはずだし、おかしいなぁ ……。 しかし、ちょっと異様な熱気みたいなものがムンムン伝わってきて、つい怖いもの見たさで 「その場所」 に足が向いてしまった。

 驚いた。 50~70代とおぼしき男女が地面にずら~っと小さな紙を並べ、立ったり座ったりしながら熱く語り合っていたのだ。


子どものための代理お見合い広場

 私はすぐにピーンと来た。 これは未婚の中国人の父母たちによる 「子どものための代理お見合い広場」 じゃないか!

 私は4~5年前も上海の人民公園で父母によるお見合いの現場を取材したことがあった。 中国の大都市ではこのように公園の一角を活用して、未婚の子どものために、父母たちが子どもの釣書( 履歴書 )を見せながら、 「うちの子、お宅のお嫁さんに( お婿さんに )どうでしょう?」 的なお見合いを繰り広げることはごく一般的だ。

 当時、その人民公園のお見合い広場では、お天気の日でも雨傘に紙を貼りつけるというユニークな紹介の仕方をしていたが、最近の中国では日本以上にスマホのアプリなどが普及していてネット上の婚活サイトもたくさんあるため、このようなリアルなお見合い広場は少なくなってきたのではないか、と私は思っていた。 だから、こうしてまだ続いていることに私はちょっと興奮し、覆面取材を思いついた。


「男孩儿? 女孩儿?」 ( 男の子? 女の子? )

 きた! 私にもすぐに声が掛かった。 私も20代の子どもがいてもおかしくない年齢だ。 お嫁さん( お婿さん )探しをしにきた中国人の親だと勘違いされたらしい。 一瞬戸惑い、すぐに返事ができなかったものの、私は自分がこの場にいてもおかしくない 「あるストーリー」 を思いついた。 私が日本人であることは、口を開けばすぐにわかってしまう。 だから、私の夫は中国人ということにして、一人娘のために初めて中山公園にやってきた日本人妻だと言おうと思ったのだ。


不動産を持つことはステータスであり結婚の条件

 地面に並べられた紙を熱心に見て歩くと、また 「男の子かい? 女の子かい?」 という声が掛かった。 平静を装って 「え~っと、うちは女の子です」 といってみた。 相手の表情がぱっと明るくなった。 その人は50代後半くらいの女性で、30歳の息子のお嫁さんを探しているのだという。 息子の略歴が書かれた紙を見せてくれた。 そこにはこう書かれていた。

 男性、清華大学卒。 国有企業勤務。 北京戸籍あり。 身長181センチメートル。 マンションあり。 1989年以降生まれの女性を希望。 大学本科以上の学歴を希望。 容姿端麗であること……。

 北京大学と並び中国の最難関といわれる大学を卒業し、まだ30歳。 略歴を見るかぎり、申し分ない。 というか、こんなにいい経歴の男性にはめったにお目にかかれない。 それなのに、なぜ結婚できないのか?

 不思議に思った私は正直に尋ねてみたが、 「奥手で、女性に対して消極的なんだよ。 まだ結婚する気がないみたいなんだけど、ボヤボヤしていたらいい相手がいなくなっちゃうでしょう? だから私がこうして嫁を探しに来ているんだよ」 という返事だった。

 中国で高学歴、国有企業勤務、しかも戸籍があるといえば、よりどりみどりでモテモテのはずだ。 本人にその気がなくても、女性が黙っていないだろう。 特に北京の都市戸籍を持っているという点が中国ならではの最強ポイントだ。 日本では考えられないことだが、中国では北京か上海の都市戸籍を持っていることは結婚の際の最大の強みになる( 中国人の戸籍は日本のように1種類ではなく、都市戸籍と農村戸籍に分けられる )。

 北京の都市戸籍( 都市戸籍には個人戸籍と団体戸籍の2種類あり、詳細は省くが、北京生まれの人は基本的に個人戸籍を所有 )を持っていれば、不動産を自由に買うことができるからだ( この男性の場合はすでに不動産を持っていたが )。

 逆に、北京に住んでいても農村から出てきた農民工や、北京で働き始めてまだ数年しか経っていない外来者は、たとえおカネがあったとしても不動産を買う権利がない。

 中国人にとって不動産を持つことはステータスであり結婚の条件。 だから、この男性のようにもともと北京出身で、すでに不動産を持っているといえば最強、鬼に金棒なはずなのだ。

 それなのに、親がわざわざお見合い広場に足を運ぶ。 もしかしたら何か裏があるのか、あるいは、親が過保護すぎるんじゃないか? とも思ったが、私はとりあえず話をうやむやにして、その場を後にした。


親たちのほうが熱心というアンバランスさ

 ウロウロ歩いて地面に広げられた紙を眺めて歩いたのだが、何度も熱心な親たちから声を掛けられた。 履歴が書かれた紙を1枚ずつ見てみると 「相手には( 経済的 )負担を掛けません」 とか、父母の職業まで書き添えて 「安心してください」 という言葉まで書いてある。 そのほとんどがかなりの好条件だ。

 そんなによい条件ならば、何も毎週日曜日に朝から晩まで公園にいて、お相手探しをする必要はないのではないか? と思ってしまうが、これはやはり、まずは声を掛けてもらったり、リアルなお見合いの場に持ち込むための第1段階なのかもしれない、とも思った。 日本のお見合いでも、略歴はともかく、顔写真は実物を修正した写真を使うのは普通のことなので、それだけだと印象が弱いのかもしれない。

 お見合い広場に群がる親たちを見ていて感じたのは、子どもはそっちのけで、親たちのほうが結婚に非常に熱心だというアンバランスさだ。

 公園では2人だけ若者( お見合いする本人 )も見かけたが、99%は両親、または祖父母? といえる年齢の人々だった。 話してみると、北京出身者よりも近隣の河北省、山西省などから来ている人が多く、それぞれの故郷や子どもの自慢、北京の市場で買ったものなどについて楽しそうに話をしていた。

 そういえば、以前、上海の人民公園で取材したときに聞いた話では、お見合い広場に来ている親たちの多くは、都会で働く息子や娘の生活を心配して田舎から出てきて、しばらくの間、子どものマンションに住みつき、料理や洗濯を手伝っているうちにお見合い広場の存在を知った、あるいはお見合い広場に行ってみたいので、子どもの家に転がり込んだ、ということだった。

 「そこに行ったら、たくさん情報があるの? うちの子にも、もしいいお相手がいれば……」 と淡い期待を抱くだけでなく、同じように子どもの結婚問題に悩む同世代の親たちと情報交換してみたい、という思いが強いからだ。 本当にその場でいい相手が見つかればもちろん御の字だが、そうでなかったとしても、同じ年代、同じように適齢期の子どもを持つ親同士、さみしさを紛らわせたい、慰め合いたい、情報を共有したい、という思いがあり、公園は親たちの代理婚活の場、形を変えた一種の社交場になっているのだ、という印象を受けた。

 親が人民公園のお見合い広場に行ったことがある、という上海在住の女性に以前話を聞いたことがあるが 「まったく、あんなところに行っていい相手が見つかるわけはないのに、おかしいですよね。 私は困っているんですけど、心配してくれる母を責めるとかわいそうなので、好きなようにさせています。 親は上海の私の家に出てきている間、すごくひまなので……」 と話していた。


中国でもいろいろ婚活サイトはあるのだが…

 中国では1980年から約35年間続いた一人っ子政策によって、子どもは基本的に1人と制限されていたため、家を継ぐ男子を優先する家庭が増えた。 その結果、中国政府の統計によると、女性100人に対し男子118人と男子が極端に多く、2020年までに3000万人以上の男子が結婚できない状態になると危惧されている。

 また、女子も 「剰女」 ( 余った女性 )といわれ、高学歴女性ほど婚期を逃す傾向がある。 そんな子どもたちもまた、日本と同様、中国でも流行している婚活サイトに登録して相手探しをしているが、実際に登録している38歳の女性によると、 「ニセの写真を使ったり学歴もごまかすなど、とにかくだまされることが多くて怖い。 私はまだひとりも実際に会ってみたことはない」 と話していて、彼女の場合は真剣に取り組んでいる様子はなかった。


結婚に積極的になれない若者たちが増加

 中国は日本の10倍以上もの人口がいるとはいえ、都市部では晩婚化が進み、理想も高くなり、結婚相手を見つけるのは至難の業となっている。 また、成熟化するにつれ、日本同様、個人主義化、草食化も進んでおり、都市部に限っては 「結婚するよりもひとりで自由に暮らしたい」 という雰囲気も強い。 もちろん人によって結婚観はさまざまなので一概にはいえないし、前述したように都市戸籍のある人と結婚して安定した暮らしを手に入れたいと思っている人も多いのだが、多様化した社会で、結婚に積極的になれない若者は10年前よりも確実に増えている。


親たちは熱く語り合う

 しかし、彼らの親の世代はまだ中国全体が貧しかった時代に青春時代を送り、ほとんどが職場などで上司の紹介でお見合い結婚をした 「共通の経験」 を持つ。 適齢期になれば結婚して、子どもを持つのが当たり前だったし、親子関係もつねに連絡を取り合うほど濃密であるのが当然だった。

 そんな親たちにとって子どもはたった1人( か2人 )しかいないのだから、子どもに掛ける期待は大きい。 だが、この30年間で中国社会は大きな変貌を遂げ、人々の価値観は変わってきた。 仕事が忙しく、少し親と距離を置きたい冷めた子どもの思いとは裏腹に、親は伝統的な家庭観を貫きたいと考えている。 そんな親たちにとって、代理お見合い広場は、何とか親として子どもの役に立ちたい、濃密な家族関係を維持したい、という切なる願いを訴える場なのかもしれない。 気温38度という猛暑の北京の公園で、日がな一日熱く語り合う親たちの姿を見て、私はそんなふうに感じた。





( 2018.05.22 )

    


 中国政府は長年 「一人っ子」 政策を続けていたが、その結果、親の介護などの問題に直面する人が増え、社会問題化している。 中国の経済は発展しているが、晩婚化・非婚化、少子高齢化が進展。かつての 「一人っ子」 政策が原因となって生じている、さまざまな現実を解説する。




 1枚の写真が中国のSNSで拡散され大きな話題となった。

 「第26回中国全国撮影コンテスト」 で賞を取った写真で、作品名は 「一人っ子」。

 一人の若者が両脇の病床にある両親の間に、こちらに背を向けて座っている。 どんな表情かは想像するしかないが、その背中からは強烈な孤独と無力感が漂ってくる。 多くの人がこの写真を見て衝撃を受けて涙を流したという。

 インターネット上では、写真の中の青年は 「あなたであり、私であり、丸一世代である」、 「胸に突き刺った」 などのコメントが綴られた。 それはたった一枚の写真にすぎないが、すべての 「一人っ子」 にとって、 “明日の自分” を暗示するような光景だったからだ。

 同時に 「一人っ子」 の親たちにとっては、たった一人の自分の子に 「こんな苦労をかけたらどうしようか」 と不安にさせるものであった。




 中国は36年間 「一人っ子」 政策を実施した。

 現在、中国で高齢者になる世代はほとんどが 「一人っ子」 の親だ。 そして、三十余年前の 「一人っ子」 も親世代になって、すでに “中年” になった。 夫婦の上には4人の親がいて、下には子ども1人という4・2・1の家庭構造となっている。 夫婦2人が自分の子供を育てながら、双方の親の面倒を見なければならない。

 世代的に中年となった多くの 「一人っ子」 が、一番恐れているのは親が倒れることだ。 兄弟がいないため、すべて一人で背負っていかなければならない。

 経済が急速に発展していると同時に社会の競争も増していく中で、職場で厳しい競争を勝ち抜いた中年世代の人々の生活基盤は、実は脆弱である。 社会保障制度が整備されていない中で、親が病気になれば生活に大きく影響してしまうからだ。

 あるキャリアウーマンは、母親が入院してしばらくしたら、父親も骨折。 入院した母親の病院と実家の父親の間を奔走する毎日だった。 仕方なく、会社の大事な会議を欠席したり、休みを取得する時期が続いたら、上司から注意を受けた。

 結果的に、何年も待っていた昇進のチャンスを逃してしまった。 長年、頑張ってきて出世を目指していたが、親の介護によって昇格が泡と消えてしまったことが悔やまれてならなかったという。

 中国の夫婦はほとんどが共働きのため、親の介護と仕事の狭間で苦しむ。

 誰にも相談できず、一人ですべてを抱え込んでしまう。 もし、親だけではなく、自分の子どもにも大きなケガや病気が起きれば、家庭が崩壊しかねない事態に発展してしまうのだ。 高額な医療費だけでなく、場合によっては職を失うなどさまざまなリスクが押し寄せてくる。




 先述した通り、親から離れて別の地で働いて生活する 「一人っ子」 が実家からの電話に出る瞬間、最も恐れることは 「親の身に何かがあった」 という知らせだ。

 なぜなら、帰りたくてもすぐには帰れないからだ。

 ある日、ベッドから落ちて立ち上がれなくなってしまった親は、子どもに知らせようと思っても、すぐには帰ってこないことを悟り、 「わが子はアドレス帳にいるだけで、そばにはいない」 と嘆いた。 これは一時中国で流行語となった。 「遠い異郷で結婚したことを後悔している」 というのは、ある知人女性の言葉である。

 一方、 「一人っ子」 の親たちもつらい思いや経験をしている。

 90年代後半、春節を祝う中国版の紅白歌合戦で、 「常回家看看」 <時々実家に帰ろ> という歌が披露された。 この歌は人々の心を動かして、何年も歌い継がれる名曲となった。

 故郷にいる親がたくさんの料理を作って、異郷にいる子どもの帰りを待つ心境を表現し、 「一人っ子よ、時々親の顔を見に家に帰ろうよ」 と歌った。 そんな親たちは 「留守親」 と呼ばれていた。




 2010年以降、 「一人っ子」 が結婚し子どもが生まれて家庭を持つようになったら、今度は親が子や孫を恋しがり、住み慣れた故郷を離れ、子どもが住む都会にやってくる。

 近年、異郷で子どもと一緒に暮らす親たちを 「都市老漂流族」 と名付けられている。 2016年末の統計では、中国全国でこのように漂流する親の数は1800万人に達している。 そのうちの約4割は、子どもの家庭で孫の面倒を見たり、家事手伝いをしているというデータがある。

 親たちは、昼間は食材の買い出しや掃除、晩ご飯の準備など家事全般をする上、孫の幼稚園や学校の送り迎えもする。 住み慣れてない街での生活は決して楽ではない。 一番つらいのは言葉の壁だ。

 中国は同じ国内であっても、地域によって言葉がまったく通じないのである。 例えば北の人にとっては、上海語などの都市部の言葉はまるで外国語と同じ。 ゆえに漂流族の親たちは、地元の同年代の人ともコミュニケーションを取れず、社会に溶け込むことができない。 言葉が違ったら、 「田舎者」 と揶揄されて差別されることも度々だ。

 子どもや孫と一緒に暮らしても結局は孤独だ。 また、最近は、難病などを患っている親が子どもに迷惑をかけなくないため、自殺するケースが増えているとの報告もある。 この報告では、毎年55歳以上の自殺者数が10万人で全体の36%を占めている。

 「一人っ子」 は、生まれてこの方、ずっと大事に育てられてきた。 孤独だが愛情をたっぷりもらう 「幸せな幼少期と青年期」 を過ごしている。

 ところが中年となったら、自分の家族を養うと同時に、親の面倒も見なければならない。 親と家族に何かがあったら、すべてを背負っていかなければならない。 だから 「重圧の中年」 と呼ばれている。

 高齢化と少子化が進む一方、昔に比べて平均寿命も伸びている。 今の中年の 「一人っ子」 は自分が高齢者となってからも、場合によっては自分の親を介護する必要が出てくる。 そうなればまさに 「老々介護」 の状況で、彼らは 「悲惨な高齢者」 となる。

 「貧乏であってはだめ、病気してはだめ、遠くに嫁いだらだめ」 と一人っ子たちは口を揃える。


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 「一人っ子」 の問題は、これだけではない。

 事故や病気で一人の子どもを失い、新たに子どもの可能性がない夫婦は、中国語で 「失独家庭」 と呼ばれる。

 現在、全国で100万世帯があり、毎年7万世帯のペースで増えている。 当時、国の政策に応じて1人の子どもしかつくらなかった。 その一方で、中国は伝統的に 「養児防老」 ( 子を養って老後の面倒を見てもらう )や、 「多子多福」 ( 子が多ければ幸福である )などの考えがある。 基本的には、いずれも 「親の老後は子どもが看る」 という考え方を表すものだ。 そして今となって、たった1人の子どもを失った親は 「心の傷」 を癒されることなく、齢を重ねてきた。

 そこで、新たな社会問題が生じている、彼らの老後は誰が看るのだろうか …… と。

 政府は、この問題についてようやく動き出した。 近年、経済的な支援を行うような政策が各地で広がっている。 また、北京をはじめ上海などの経済が発展している地域では、介護施設への入居希望があれば、その費用の全額を政府が負担する動きが始まっている。

 一人っ子の親の介護に対する支援制度も徐々に広がっている。

 昨年半ばから、福建省や重慶市などでは 「一人っ子の親介護有給休暇制度」 を始めた。 医師の証明で親の介護が必要となる場合、企業が10〜20日の有給休暇を与えなければならない制度だ。 今年に入ってから全国約10の自治体がこの制度を実施し、全国へ広がりつつある。 この制度は国民に歓迎されていて、専門家は 「国の法律として立法すべき」 と意見表明している。




 少子高齢化が進み、労働人口が毎年800万人のペースで減少していく中で、3年前に中国政府は 「一人っ子」 政策に終止符を打った。

 しかしその後、政府の思惑とは裏腹に、予想よりも新生児の人数ははるかに少ない。 全国平均でも第二子の子育て適齢期の世帯全体数から、第二子を設ける世帯はわずか2割にとどまっている。

 一番大きな理由は、子どもを育てるコストがかかり過ぎるということである。 「十分なお金がない限り、子どもを産まない」 という家庭が増えているのだ。 もっぱら、子どもが2人も3人もいるのは、事業が成功している富裕層や芸能人ばかり。 このため、一般の人が2人目をつくろうとすると、周りから 「何よ、芸能人ぶっている」 と皮肉ぽっく言われるぐらいだ。

 中国では、経済や社会が発展にするにつれて、晩婚や結婚しない、結婚しても子どもがいらない人も増えている。

 今後も少子高齢化はさらに加速していくことが予測される。 社会保障制度が整備されない限り、 「一人っ子」 とその親の生きる道は決して楽にはならない。






( 2018.09.29 )

   

 中国で30年にわたって続いた 「一人っ子政策」 の影響で、2030年の一人っ子たちは老いゆく2人の両親と4人の祖父母を養う責任を負うことになる。 そのとき、消費を楽しむ世代が自由に金を使えなくなって消費の傾向が激変し、世界経済に大きな影響を及ぼす可能性がある ──

 30年にわたる 「一人っ子政策」 は、中国の人口構成を砂時計のようなかたちに変えつつある。 いちばん上が高齢者、いちばん下が子どもの層だとすると、その真ん中がくびれているというかたちだ。

 一人っ子政策は2015年末から、段階的な撤廃が始まった。 だが、この政策が生み出した問題は、近い将来の中国経済に大きな影響を及ぼすとみられている。 都市部の一人っ子たちの肩には、老いていく2人の両親と4人の祖父母を養う責任がのしかかることになるからだ。

 この 「4-2-1問題」 は、 「BAT世代」 の未来である。 つまり、中国のテック巨大企業である百度( Baidu )、アリババ( Alibaba )、テンセント( Tencent )の影響力が強まっていくなかで育った世代のことだ。

 彼らの大多数は、中国の中流層に属している。 現在の中国の中流人口は4億3,000万人だが、30年までに6億5,900万人に拡大すると予想されている。 つまり、米国、ドイツ、英国、フランス、イタリア、スペインの人口の合計を上回ることになるわけだ。 人口構成上のボトルネックが広がる一方で、この世代の嗜好の変化は、中国のみならず、広く世界にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。


 高まる中国製品の人気

 現在のところ、中国のミレニアル世代は金回りがよく、積極的に消費している。 月末になると銀行口座が軽くなるため 「月光族」 と呼ばれるこの世代の大多数は、毎月の給料を全額消費し、ほとんど貯蓄をしない。

 そうした消費の大半はこれまで、アップルのノートパソコン、グッチのバッグといった欧米の高級商品が対象だった。 しかし現在、その様相が変わりつつある。 中国の好調な経済や、習近平国家主席が指揮するソフトパワーの強化に支えられるかたちで、国家意識とプライドが高まっているためだ。

 習主席の構想には、旧シルクロードにあたるユーラシア地域の連帯強化を目指す巨大インフラプロジェクト 「一帯一路」 や、中国産業の現代化を目指す 「中国製造2025」 といった戦略が含まれている。 中国製造2015は現在、米国との間で起きつつある貿易戦争によってトーンダウンしているものの、今後10年で重要な役割を演じる態勢を整えつつある。

 中国文化では新たな文芸復興が起きている。 人気テレビ番組では伝統的な詩や工芸が紹介され、昔風のファッションが復活している。 中国のファッションデザイナーであるグオ・ペイとユマ・ワンは、国内でも国際舞台でも成功を収めている。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーが最近発表した調査によると、いまや中国の消費者は17のカテゴリーのうち9分野で、外国製品よりも国内製品を高く評価しているという。 これにはビールやエレクトロニクス製品、さらにはファッションも含まれる。


 2030年には消費傾向が激変する

 中国のBAT世代の消費力を考えれば、今後この人口層の欲求やニーズに基づく新製品や画期的技術が増えるはずだ。 そうした製品はいずれ、中国の新たな貿易関係を通じて世界中に進出するだろう。

 すでに中国で事業を展開する多くの会社が、中国のミレニアル世代の支持によって急成長しているサブカルチャー 「ACGN」 ( アニメ、コミック、ゲーム、ノヴェル )に照準を合わせ始めている。 ある推計では、中国のアニメファンは2億人に上るとされ、5年以内に760億ドル規模( 約8.5兆円 )の市場になると予測されている。

 国際的なブランドも、中国市場の独特な傾向に合わせて商品を仕立てる必要に迫られる。 例えば、大きな影響力をもつが閉鎖的な 「微信( ウェイシン、WeChat )」 のエコシステムに対応する必要がある。 商品やメッセージに文化的側面や 「中国らしさ」 をプラスすれば、効果が期待できるだろう。

 だが、BAT世代が年をとるにつれ、その消費傾向は変わっていくことが予想される。 30年までにBAT世代は、中国の人口のおよそ40パーセントを占めるようになる。 さらに、彼らは家族を代表して購買決定を担う立場になる。 その家族とは、1億人の高齢者と、2億2,400万人の子どもたちだ。

 4人の祖父母と2人の親が1人の子どもを育てるという 「4-2-1体制」 は、1人の子どもが2人の親と4人の祖父母を養うという 「1-2-4体制」 へとシフトしていくと見られている。 BAT世代は、収入がピークになる30~50歳に差しかかるころには、子どもを養いつつ親の面倒も見ることになるため、収支の帳尻をどうにか合わせる状態になるはずだ。 そうなれば、彼らの消費傾向は、より実用面を重視したものになるだろう。

 自由に使えるお金が減る結果、贅沢なブランド品のパイが小さくなり、代わりに医療や保険、子どもの教育に対する支出が増えるはずだ。 国際的なブランドは、そうしたセクターの企業と提携してブランドイメージを構築するようになるだろう。

 一方で家計が厳しくなる結果、購入に代わる手段として、巨大なレンタルプラットフォームの成長が加速すると見込まれる。 特に贅沢品、不動産、自動車ではその傾向が強いだろう。


 世界経済への影響をさらに強める中国

 中国製造2025計画は今後20年かけて、模倣家と非難されることの多い中国を、本物のイノヴェイションと技術進歩の源へと変えるだろう。 欧米企業と比べ、歴史の積み重ねによって生まれた重荷が少ない中国企業は、よりたやすく革新や変化を遂げるはずだ。

 それと同時に中国のAI企業は、プライヴァシーの懸念に対して比較的寛大なBAT世代、政府の寛容な政策、そして中国の膨大な人口という巨大な学習基盤に助けられ、欧米のライヴァルたちを追い越すだろう。

 中国の地政学的・技術的な影響力の拡大とともに、BAT世代の影響力は世界経済全体に波紋を広げていくと見込まれる。 一帯一路構想が実現すれば、中国は68を超える国々と結びつき、世界人口の65パーセント、GDPの40パーセントに影響力を広げることになる。

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 中国の科学者がヒト受精卵に世界初の遺伝子操作 ── タブーを冒したこの実験について、欧米では学術誌からマスメディアまで、その是非をめぐり大論争となっている。

 世界を驚愕させたその実験は今年4月に生物学・生物医学の学術誌 「プロテイン&セル」 に掲載された論文で明らかになった。 中国広東省にある中山大学の黄軍就副教授らの研究チームがヒト受精卵の 「ゲノム編集」 を行ったというのだ。
 ゲノム編集とは何か。 サイエンスライターの島田祥輔氏が解説する。
「ゲノムはあらゆる生物がもつ、いわば設計図です。 生物の身体を料理に例えるとゲノムはレシピにあたり、そこに書かれた情報を基に生物のかたちができあがる。 ゲノム編集とは、人為的にこのレシピを書き換えることで生物のかたちを変える技術の一種です。 従来の遺伝子組み換えより簡単で、成功率の高い優れた技術です」
 ゲノム編集の有益性は高く、農作物の品種改良や新薬の開発、遺伝子治療など様々な分野に応用できる。 米国ではHIVに感染したヒトの体細胞からウイルスを取り除ぐ臨床研究が始まっている。
 今回の実験が問題視されたのは、世界で初めてヒト受精卵にゲノム編集を施したからだ。 欧米ではタブー視される行為であり、激しい論争を巻き起こした。
 なぜ、ヒト受精卵のゲノム編集は問題なのか。 目や髪の色、筋肉の質や量などの遺伝的特質を人為的に操作して 「設計」 された 「デザイナーベビー」 の誕生につながるからだ。
 個人のさまざまな特質や能力の元となるゲノム情報を 「書き換える」 ことで、 「ヒト作り替え」 が可能になる。
 さらに問題なのは、ゲノム編集した受精卵から生まれた子供の遺伝子が永遠に受け継がれる点。 これにより、現時点でわかっていない副作用などが将来世代に及ぶリスクがある。
「ゲノム編集技術を用いれば、目の色や体質だけでなく、運動能力や体格、IQ( 知能指数 )すら思い通りに操作できるようになります。 SF世界のような “強化人間” も技術的には可能です。 しかし、どこまで人間のレシピを書き換えていいのか、そもそも書き換えていいのかという “境界” の議論は世界的に進んでいません。 線引きが曖昧な状態のまま中国の論文が発表され、科学界に大きな衝撃が走りました」( 島田氏 )
 今回、中国の研究チームは胎児に成長する能力のない受精卵を使っており、科学的・倫理的な問題点はクリアしたと主張するが、この研究が 「ヒト作り替え」 の最初の一歩となりうることは間違いない。
 欧米の科学者は中国の 「暴挙」 に激しく反発した。 黄副教授に電話インタビューを行った英 「ネイチャー」 誌のデービッドーシラノスキー記者が言う。
「黄副教授はとてもオープンで意思疎通のできる研究者でした。 しかし、欧米の人々はこの実験を好意的に見ていない。 反対派は将来的に生殖目的でゲノム編集が行われることに危惧を抱いています」




 今回の論文発表前、科学界には不穏な空気が流れていた。
「3月頃から、 “ヒト受精卵にゲノム編集を施した実験が行われた” との噂が流れていた。 これを察知した欧米の科学者は学術誌で “ヒト受精卵のゲノム編集は控えるべき” “オープンな議論が必要” と訴えていました」( 島田氏 )
 しかし、こうした牽制を無視するかたちで4月に中国チームの論文が 「プロテイン&セル」 に発表された。
 不信を抱かせるような中国の姿勢に欧米は危機感を顕わにし、各学会は相次いで研究のモラトリアム( 一時中止 )を求める声明を発表。 米ホワイトハウスの大統領袖佐官も
「人類の遺伝子改変につながる重大で差し迫った懸念を抱く。 越えてはいけない一線だ」
 と反対の姿勢を明確にした。
 ゲノム編集は重篤な遺伝病を阻止することが期待されるなど、今後を有益かつ有望な技術であることに変わりはない。 それでも、欧米の科学者は 「デザイナーベビーは本当にないのか」 などと中国への不信感を強めている。
 その背景のひとつが、根深い文化の違いだ。 「生命科学の欲望と倫理」 ( 青土社 )の著者で東京財団研究員の柵昌次郎氏が解説する。
「欧米では受精卵など生殖細胞を “神の領域” として、人の手を加えることに過剰なほど反発が起こります。 一方、中国の儒教思想では “男子の子孫を残すこと” が最高の価値。 そのためには、代理母などの生殖補助技術を躊躇なく推進します。 受精の瞬間から人間が始まるとする欧米と違い、ヒトの受精卵に手を加えることに抵抗は少ない」
 寄島氏によれば、中国では男性側の不妊の治療として、親や兄弟から皐丸を譲り受ける 「生体畢丸移植」 が行われていたとの情報もある。 これも男系血統を頑なに求める儒教思想が背景にあるという。
 文化的背景に加えて、貪欲に科学研究を進める中国の姿勢も不安を掻き立てる。
 中国国家統計局によると13年に中国が科学研究と実験の発展に投じた費用は1兆1800億元( 約23兆円 )。 日本の科学技術関係予算約3兆6000億円( 14年度 )とは雲泥の差だ。 予算だけでなく人材も豊富で世界最先端の研究環境を備えている。
 さらに中国政府の 「ニンジン作戦」 が事態を悪化させる可能性もある。 北京大学生命科学研究所のラオーイー教授が米ニューヨークータイムズ電子版( 6月29日付 )に明かしたところによると、中国の科学者は一般に給料が低いが、国際的な学術誌に論文が掲載されると最大3万2000ドル( 約380万円 )が国から支給される。
 このボーナスが 「倫理的な境界線」 を越えるインセンティブとなり得るとラオ教授は指摘する。 実際、今の中国の科学者には 「Do First, talk later( 先にやってしまってから議論をしよう )」 という風潮が見られるという。
 国家の後押しを得て功名心に駆られる中国の科学者にとって、 「境界」 などないに等しい。 歯止めとなるのは国際的なルールの設定だが、 「ヒト受精卵の扱いを含む生殖分野では各国の主張が異なりすぎ、合意を得るのは難しい」 ( 柵島氏 )という現状だ。
 欧米が深ぐ懸念するように、今後中国の科学者が 「暴走」 しない保証はない。 「ネイチャー」 誌によれば、中国では現在、少なくとも4つの研究グループがヒト受精卵のゲノム編集を進めているという。